■シミュレーションゲーム専門誌■【Command Magazine(コマンドマガジン) [シミュレーションゲーム・ミリタリーヒストリー・ストラテジー・アナリシス]】Command Magazine(コマンドマガジン)

ウォーゲーム・メカニクス第2回ウォーゲームの戦闘解決方法(1)のバナー

前回から始まったこの連載記事は、これまで数え切れないほど出版されてきたウォーゲームについて、そのシステムおよびメカニズムを検証・分析することを主たる目的としています。
とはいえ、所詮筆者一人の知識や経験などで網羅できるほどそれは生やさしいものではないという自覚はあります。それゆえ、連載の中で間違いや思い違いもあるでしょう。
そういう場合は遠慮無く指摘してください。また、提案や質問、要望等も大歓迎です。
幸い、現在はメールやTwitter(1)といった便利なものがあります。もし筆者にコンタクトを取りたい場合はこちらを活用していただければと思います。

さて、前回は第1回ということでウォーゲームならではの要素である「戦闘結果表(CRT)」について考えてみました。今回はその流れを受けて、さまざまな「戦闘解決方法」について考察してみたいと思います。
ゲームを製作する側からウォーゲームを見た場合、それは題材とした戦闘(戦争)をどう表現するのかということになります。言い換えるなら、それはデザイナーの史観であり、センスの反映ということになるでしょう。
たとえばカエサルによるガリア遠征のゲームであれば「いかにもそれらしい」とプレイヤーが感じられればそれは成功といえるでしょう。

ところでエポック社/サンセットゲームズの『史上最大の作戦』は、作戦級ながら戦闘解決にファイアパワーが用いられています。筆者はこのゲームが出版されるとすぐに購入し(もう40年近く前の話です!)、いたく気に入ってよくソロプレイをしていました。しかし当時の「ベテラン」は「作戦級でファイアパワーなどおかしい。よってこのゲームはダメだ」と決めつけたのです(少なくとも私の周りにはいました)。
その頃は自分に知識が無くて言い返すこともできませんでしたが、今なら「そんなことはない」と言えます(2)

「作戦級だから戦力比でなければならない」ということはないし、大事なことは、その題材をデザイナーがどう捉え、そしてその「史観」を適切にプレイヤーに伝えられているか否かでしょう。
その点、同作品はノルマンディー上陸作戦のゲームとして成功しているように思います。そしてその一翼をファイアパワーの戦闘システムが担っていることは間違いありません。
それではウォーゲームにはどのような戦闘解決方法が用いられているのでしょうか。まずはそれを分類・整理してみたいと思います。

◆戦闘解決方法の種類

ウォーゲームの戦闘解決方法は、概ね以下の方式に集約されます。

  • I. 戦力比
  • II. ファイアパワー
  • III. X出ろ
  • IV. 戦力差
  • V. 火力差
  • VI. 競り

I. 戦力比

これらのうち、もっとも一般的で、もっとも古いと思われるのが「戦力比」です。
攻撃側の戦闘力(攻撃力)と防御側の戦闘力(防御力)を簡単な整数比に当てはめ、戦闘結果表(Combat Result Table=CRT)でダイスの値と交差する欄の結果を得るのが一般的です。(CRT例:WGM第1回-戦闘結果表CRTページへ)
ウォーゲームの大半がなんらかの戦争、あるいは戦闘行為を題材としてデザインされている以上、戦理と無関係ではいられません。むしろそこから乖離するほど、ある種のウォーゲームらしさが失われていく可能性は高くなります。

 一般に「攻撃側3倍の法則」と言われます。攻撃側が防御側に勝利するためには、3倍以上の戦力が必要ということです。ここで気をつけなければいけないのは、必要なのは「戦力」であって「兵員数」ではない、ということです。つまり総合的な「戦力」を評価する必要があるわけです。
そしてこの法則を適用するには戦力比を用いるのがもっとも整合性がとれています。ゆえに多くのウォーゲーム、とりわけ作戦級のゲームで使用されているわけです。
とはいえ、すべての戦闘行為が戦力比で解決できるわけではありません。戦力比が無理なく適用できるのは、一定以上の戦闘規模だといえます。
たとえば、個人間の戦闘には相応しくないし、対ゲリラ戦闘などとも相性はよくありません。これらの戦闘の解決には火力や技能、偶発的な要素などを加味した方がそれらしくなるでしょう。
戦力比の優れている点は、比較的少ない労力で、大規模戦闘の結果を「それらしく」導いてくれることです。これは前回の戦闘結果表とも関係しますが、最も古い戦力比による戦闘結果が「除去」「後退」「相互損害」からなっているのは偶然ではありません。

ある一定規模の軍隊が戦闘した場合、程度の差はあってもこのような結果に集約されるためです。
つまるところ戦力比による戦闘解決方法とは、大規模戦闘を極限までシンプルな形に落とし込んだものだといえます。
一方、戦力比システムの欠点は、慣れていない者にはピンとこないこと、また計算が面倒だということが挙げられます。
戦史にもゲームにも慣れすぎたウォーゲーマー諸氏は「何を言っているのだ」と思われるかもしれません。しかし日常生活において「割り算をして整数比に直す」作業など大抵の人は無縁でしょう。ゲームにおいて、いきなりそれをやれと言われれば抵抗を感じたとしても不思議ではありません。そしてウォーゲームではもっとも一般的な戦力比システムが、ボードゲームではまったくといっていいほど馴染みがないのは、ボードゲーム全体におけるウォーゲームの存在を象徴しているとさえいえるのではないでしょうか。

また、だからこそボードゲーマーにもっとウォーゲームを受け入れてもらうためのヒントの1つがここに隠されているようにも思えます。
ともあれ、ウォーゲームでは便利で、「それらしい」結果が導き出せる戦力比システムはこれからも多用されることに疑いはありません。ただ、重要なのはこれをいかに活用し、また進化させていくかということです。このあたりのことは次々回に述べたいと思います。

II. ファイアパワー

この方式も今や多種多様な形式が考案されていますが、もっとも一般的なのは攻撃側の攻撃力とダイスの値を戦闘結果表に当てはめ、交差する欄の結果を適用するタイプです。この時、防御側の戦力や状況などは加味されないことも多いですが、ゲームによっては地形効果とともに修正値として影響を与える場合もあります。

ファイアパワーは『スコード・リーダー』を代表とする戦術級ゲームで多用されています。これはもちろん偶然ではなく、ファイアパワーが表している「火力戦」と関係しています。
散兵戦術以降の小部隊戦闘では、火力による制圧と、それに続くマンパワーによる白兵戦という流れがセオリーです。そのため、1ユニット=中隊規模くらいまでの戦術級ゲームでは、火力戦と白兵戦を分けて処理するケースが比較的多いです。そしてこの場合、『スコード・リーダー』のように火力戦はファイアパワー、白兵戦は戦力比として使い分けられています。
さらに火力戦による制圧射撃は実損害よりも「戦闘不能状態」に陥らせることを主眼とし、白兵戦は敵戦力の排除を主目的とした戦闘結果になっていることが多いです。つまりこれらは現実の小部隊戦闘をゲーム上で再現するのに都合の良いシステムというわけです。

ところが、ファイアパワー方式は小部隊戦闘のみならず、作戦級規模のゲームにも用いられることがあります。冒頭で述べた『史上最大の作戦』もそうですが、GMT/CMJの『Tigers in the Mist』などもこれにあたります。また、コロンビア社のいわゆる「積み木シリーズ」でもよく用いられています。
そしてファイアパワー方式は、細分化すると火力合計方式と個別射撃方式にわけられます。
これらは移動方法(ヘクスかエリアか)とも関連性を有している場合があります。
またダイスを振る機会を多く設計できることから、ゲーム・プレイを盛り上げる効果があります。その点で、展開が一方的な題材での使用にも適しているといえるでしょう。
さらにファイアパワー方式は近現代戦のみならず、古代戦のゲームにも用いられています。
たとえば、古代戦の場合は陣形を組んだうえでの部隊の衝突となるわけですが、その前段階として投石兵や弓兵による射撃戦が展開されます。

これは小部隊戦闘というわけではありませんが、ある種の火力戦であり、相手に一方的に損害を与える戦闘といえます。それゆえ、古代戦であっても射撃戦についてはファイアパワーが用いられることもあるわけです。
同様に、宇宙艦隊戦であっても、戦闘を再現する規模や演出次第でファイアパワーを採用する場合も、戦力比を採用する場合もありえます。
いずれにしても、これらの詳細は次号以降で改めて検証したいと思います。

◆不確定要素について

III. 以降については次回で解説するとして、ここで少し不確定要素について考えてみたいと思います。
戦力比にしろファイアパワーにしろ、その結果を得るために通常はダイスを使用します。つまり、結果には常に揺らぎが伴うわけです。

史実をベースとした戦闘を解決する手段として、このような揺らぎ、すなわちなんらかの不確定要素を加味することは、むしろ自然なことだと言えるでしょう。なぜなら実際の戦闘においても予期しない偶然や偶発事故は起こりうるからです。
また当然のことながら、数が多いほうが必ず勝つというわけではありません。
ところが、一般的なボードゲームではこの感覚はやや異なると思われます。どこまで許容されるかはケース・バイ・ケースでしょうが、ウォーゲーマーほどは受け入れられないかもしれません。

これは先日行ったアンケートの結果で、一見すると大半はOKとも取れます。ただ「抵抗がある」という20%を多いとみるか否かで見方が変わってきます。
私見ですが、ウォーゲーマーにこの質問をすれば、恐らく100%近くはOKと答えるのではないでしょうか。
逆説的に言えば、ウォーゲーマー以外では2割の人が抵抗を感じるわけで、これは無視できません。

詰まるところ、ゲームにおいて自分の行動の結果としての成功、あるいは失敗は受け入れられるが、自分ではどうにもならない「神の手」によって勝敗が左右されるのは受け入れがたい人が一定数いるということでしょう。
実際、重要な局面で乱数を用いないボードゲームは数多くあります。これは案外、ウォーゲーマーとボードゲーマーの間に横たわる、深い溝なのかもしれません。

  • 【注釈】

  • (1)Twitterで「堀場工房」で検索するか、こちらまでご連絡ください。
  • (2)同作のデザイナーズ・ノートには、なぜ戦力比でなくファイアパワーを選択したのかということがきちんと述べられています。詳細は省きますが、「シミュレーション」ゲームの根幹に関わる、重要な示唆だと思います。
前の記事へ

2020年8月20日発行 第154号

次の記事へ