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ウォーゲーム・メカニクス第8回 ウォーゲームの移動(2)のバナー

◆ヘクスマップの移動

前回は移動ルールの概略を述べましたが、今回からヘクスマップにおける移動のメカニズムを中心に考えていきたいと思います。
まず、ヘクスマップにおける移動のメカニズムの基本概念ですが、以下のように集約されます。

  • @現在のヘクスに隣接するいずれかのヘクスに動く。
  • A1ヘクス移動するごとに規定の移動コストを消費する。
  • Bユニットの移動力値まで移動することができる。
  • C移動は任意であり、強制されない。

もちろんいずれの場合も例外はありますが、あくまで基本的にはこのような概念によって機能しているわけです。
一般的なウォーゲームは、プレイヤーすなわち指揮官が掌握している部隊を動かすわけですから、当然といえば当然の規定です。

一方、上記の例外が生じるケースとして、@の場合だと「ワープ移動」が考えられます。
例を挙げると、GMT社の『COMBAT COMMANDER:PACIFIC』やLock 'n Load Publishingの『Heroes of the Pacific』では、洞窟から離れた場所にある別の洞窟までヘクス数に関係なく移動することができます(日本軍ユニットのみ)。
あるいはSFゲームにおけるワープや、ファンタジーゲームの「魔方陣による移動」などもこれに該当します。
これらは特殊な移動のため、多用するとゲームを破壊しかねませんが、制約を設けたうえで採用するならゲーム展開に変化をもたらし、面白いものにできる可能性を秘めています(もちろん、プレイヤーが納得できるような背景や設定も必要です)。

Aについては例外というわけではありませんが、2つの方法が考えられます。1つは地形によって移動コストが異なる場合。もう一つは同じ地形でも、ユニット種別によって必要な移動コストが異なる場合です。
1つめは一般的なウォーゲームで多用されている方法です。たとえば平地の移動コストは1、森なら2、山岳なら3といった具合です。
2つめは、たとえば平地の場合、騎兵なら1移動コストで、歩兵なら2移動コストというケースです。
さらにこの2つの混合ケースもあります。たとえば平地は歩兵も戦車も1移動コストですが、森だと歩兵1/戦車2、山岳だと歩兵2/戦車は移動不可、となる場合です。
いずれにしてもユニットの移動力値と地形コスト(移動の消費コスト)は相関関係にありますので、テストを繰り返して調整する必要があります。

Bの例外としては、特殊な装備やアイテムを付加することでユニット固有の移動力値にボーナスを与える方法が考えられます。たとえば戦術級ゲームで歩兵ユニットをトラックなどに乗車させて移動力を増大させる場合などもこれに該当します。

Cの例外としては、混乱状態にあるユニットが敵によって移動させられる場合などが考えられます。退却は厳密に言えば「移動」ではありませんが、「ユニットを動かす」という観点からいえば広義の移動ともいえます。また、カード・ドリブン・システムのゲームにおけるイベントなどの特殊状況において、相手が自軍部隊の一部を移動させるというケースも考えられます。

いずれにしても、@と同様、多用は控えたほうがいいと思いますが、適度な使用であればプレイに驚きと苦悩を与えてくれるかもしれません。

◆さまざまな移動方法

ごく初期のウォーゲームは移動と戦闘を繰り返すだけのシンプルな手順でしたが、当然のことながらこれだけでは再現できることに限界があります。そのため、ウォーゲームの発展とともに移動のメカニズムもさまざまに進化・発展してきました。
ここではそれらの一部を参照しながら、移動についてより深く考察してみたいと思います。

◆複次移動

一般的には「二次移動」ルールとして知られますが、1回のプレイヤー・ターン中に2回以上移動できる場合や、一部のユニットのみが移動できるケース(機械化移動など)もあるため、このような呼称にしています。
複次移動のないゲームでは、戦線に穴を開けたとしても、続く相手の手番ですぐにその穴を埋められてしまうため、なかなか大突破に至らないケースが多くあります。

しかし史実では膠着した戦線からの大突破という状況はままあり、またそれがゲームの題材としても好まれることが多いわけです。
そのため複次移動のメカニズムはこうした点を改善しようと登場してきた経緯があります。
基本的なメカニズムとしては、移動および戦闘の後に、再び移動ができるというものです。応用としては自軍の二次移動の前に敵の移動が差し込まれたり(対応移動:後述)、特定ユニットのみを移動可能とするケースなどがあります。
複次移動をゲームに導入することで、多くの場合、ゲームの展開は流動的になる傾向にあります。戦線が大きく動き、ちょっとしたミスから戦線が崩壊してしまうようなことも生じます。そのためプレイヤーには細心の注意が求められ、プレイに緊張感をもたらします。
その一方で、ゲームは複雑化する傾向にあり、それに伴ってプレイ時間も増加します。またそのため、ゲーム全体のルール量にもよりますが、爽快感とは反対のベクトルを持ちます。
ただしこれはゲーム・デザインのコンセプトにも依拠するため、デザイナーがなにを再現しようとしているのかにも左右されます。

たとえばダイナミックな機動戦の妙を感じて欲しいと考えれば、ルールを極力絞り込んでユニットの移動に集中できるようにすれば、ゲーム全体としてはそう重くはなりません。
反対に、プレイ時間が増大し、難易度があがったとしても、史実再現性にこだわったデザインにするのも1つの答えでしょう。
また複次移動のルールは、シンプルな移動・戦闘の手順のゲームに比べて、戦線構築と予備部隊がより重要となります。
ウォーゲームのプレイイングの中でもややテクニカルな話になりますが、2線防御(1)および防御戦力の配置のメリハリ、攻防ともに予備部隊の抽出や配置場所を考える必要が生じ、ゲームに深みをもたらします。
複次移動のメカニズムの登場は、ウォーゲームにとって大きなブレイクスルーだったと思います。

●対応移動(予備移動)
対応移動は、自陣営のプレイヤー・ターン中に相手陣営の移動が差し挟まれるような移動全般を指します。プレイヤー・ターン中で相手陣営の移動が行われるタイミング、すなわち手順中のどこに反応移動があるかは大別すると以下の2種があります。

  • 1:当該プレイヤーの移動・戦闘の後、二次移動の前
  • 2:当該プレイヤーの移動の後、戦闘の前

1の対応移動は、主に敵の突破に対する戦線の修復という意味合いが強い移動です。それゆえ、ゲーム全体を通じて予備部隊の存在がとくに重要となります。戦線の突破を主題としたようなゲームによく用いられています。

2の対応移動は、流動的な戦闘や、混沌とした戦いを演出するのに向いています。移動そのものよりも、予備の存在とその運用に重点が置かれているといってもいいでしょう。また、戦闘処理において彼我の戦闘力が不確定になることから、戦闘比を確定させるような移動を行うことの牽制にもなります。
実際の戦場で「あと1戦力あれば3:1の戦力比が立つ」などという状況はあるはずもなく、その意味でのリアリティはあります。しかしその一方で、今度は予備部隊を動かす側が戦闘比を覆すために細かい確認をするという弊害を生じさせるデメリットもあります(戦場の霧ルール(2)を導入することである程度緩和可能ですが)。

また対応移動が可能なユニットはいくつかに分類できます。

  • a 全ユニット
  • b 予備指定されたユニットのみ
  • c 特定条件(敵ZOC外のユニットなど)

bの予備指定ユニットについては本来cの特定条件に含まれるべきですが、予備という概念は別枠として考える必要もあるので、あえて別項目としています。
また予備以外の特定条件としては、「機動性の高いユニット(戦車や騎兵など)」「敵ZOCにいない」「非混乱状態」などが考えられます。
さらに対応移動における移動力についても、「全移動力」「半減移動力」「特定の移動力」などが考えられます。
対応移動のメカニズムを導入することは、プレイに興奮をもたらす反面でプレイアビリティの低下やプレイヤーに対するルール負荷を重くする効果があります。劇薬というと言いすぎかもしれませんが、採用する場合はよくよく効果を考えて導入すべきでしょう。

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●選択式移動(手順)
プレイヤー・ターンの手順において、各フェイズの順番が一定ではないもの、あるいは回数が一定ではない場合がこの選択式移動です。
前者は、たとえばプレイヤー・ターン中に移動フェイズと戦闘フェイズが1回ずつある場合、移動フェイズを先に行うか、後に行うかをプレイヤー自身が決定できるケースです。
後者は、プレイヤー・ターン中に複数回のアクションフェイズがあり、プレイヤー自身が任意にその内容と順番を決められるようなものを指します。たとえば移動フェイズを2回実施して戦闘は行わない、あるいは移動と戦闘を1回ずつ行う、という具合です。
後者のほうが柔軟ではありますが、それだけにゲーム・バランスの調整は難しいといえます。

またこれらはゲーム手順の話なので移動そのもののメカニズムとはやや異なりますが、複次移動の亜種という意味合いでここで採り上げてみました。
選択式移動は、プレイヤーにゲーム展開の構築を委ねているという点で、実際の指揮官の裁量を感じさせてくれるものです。なぜなら実際の戦闘では「全部隊の移動が終わりました。引き続き戦闘を開始してください」などということはあり得ないからです。

「移動フェイズの後に戦闘フェイズ(あるいはその逆)」という手順がウォーゲームでまかり通っているのは、人間自身の手ですべての処理を行うゲームゆえに、処理にはおのずと限界があるためです。
人間の処理能力を度外視するならば、1ユニット(スタック)の行動(移動であれ戦闘であれ)単位で管理するゲームもデザインすることはできるでしょうが、ある程度以上の規模のゲームでは事実上プレイ不可能になります。
そうならないための妥協点として、移動と戦闘(およびその他の行動)を、フェイズという区割りで処理する手法が採用されてきたわけです。
そういう観点からすると、選択式移動という手順のメカニズムは、指揮官としての決断および裁量を試される、良いメカニズムだと言えるのではないでしょうか。

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●移動力値の不確実性
ウォーゲームをプレイしていて「すべてのユニットが、一糸乱れず自分の意のままに移動する」ことに疑問を感じたことはないでしょうか?
あるいは実際の戦場において、指揮下部隊が自分の命令通りに確実に移動することなどあり得るのでしょうか?
こうした疑念は少なからずあると思うのですが、もしかしたら多くのプレイヤーはそのことに無意識のうちに目を瞑って納得しているのかもしれません。

それは先述したように、人間の処理能力、そして記憶力には限界があると認識しているからです。
しかし、ほんの少しルールを加えることで、このような疑問を幾ばくか解消することはできます。
それはユニットの移動に不確実性を付与することです。
ただし、まず最初に越えなければならない壁があります。それはゲームに登場するユニットの総数、あるいは実際にそのような不確実性を付与するユニットの数です。不確実性を担保するためにはなんらかの判定が必要になります。そしてその判定の回数が多ければゲームのリズムや勢いを削ぎ、結果としてつまらないものになってしまいます。

したがって、もしユニットの移動に不確実性を採用する場合は、実際にそのような移動の判定を必要とするユニットの数を慎重に検討すべきです。
このような移動の不確実性をもたらすメカニズムは幾つか考えられますが、結果として出力される移動力は概ね3種に絞られます。
すなわち、「移動不可」「全移動力使用可能」「移動力減少」です。
判定方法としては、単純にダイスの結果に拠る方法(例:1〜3なら2、4〜6なら3など)、判定表を用いる方法、移動力が記載された判定チットを引く方法などが考えられます。
このような不確実な移動のメカニズムを採用した好例としては、本誌94号付録の『ビルマ電撃戦』の中国軍ユニットが挙げられます。
このゲームにおける中国軍ユニット(スタック)は移動の際に移動判定を行わなければならず、プレイヤーとしては非常に扱いづらい存在だといえます。

またこのゲームのように、陣営による非対称性を演出する手段として移動の不確実性を導入することは、プレイに変化をもたらす良い方法です。
一方で、判定が多すぎるとプレイの継続意欲を削ぐことにもなりかねません。また、移動を計算できないがゆえに、ゲームプレイ全体が混沌とする可能性も孕みます。
採用する場合にはやはり注意が必要でしょう。
今回は紙幅の都合も合って採り上げられなかったメカニズムがまだまだありますので、次回も引き続き移動のメカニズムについて考察していきたいと思います。

  • 【注釈】

  • (1)2線防御:戦闘結果によって敵ユニットが戦闘後前進を行ったり、二次移動を行う場合でも、最前線の背後にさらに戦線が構築されていれば、敵はそれ以上の突破を図ることができなくなる。突破が発生するようなゲームの場合にはとくに重要となる。
  • (2)戦場の霧ルール:戦闘解決の時以外は相手陣営のスタック(同一ヘクスにある複数ユニット)の中身を確認することはできない、というルール。
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2021年8月20日発行 第160号

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