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第11回ウォーゲームの移動:4のバナー

移動について4回目となりますが、今回で一区切りにしたいと思います。ただ移動に限らず、戦闘についても関連事項が多いこともあり、必要に応じて都度、改めて追記していきたいと考えています。
 なお、SPIの『セントラル・フロント・シリーズ』に代表される作戦ポイント・システムについては、筆者自身が履修していないこともあり、いずれ改めて触れたいと思います。

隠匿移動

さて、前回でも少し触れましたが、アナログのウォーゲームにおいてつねに付きまといながらも完全な解決策が示され得ない課題のひとつに「隠匿性」があります。
隠匿性と一口に言ってもこれまでさまざまなメカニクスが考案され、試されてきました。これらについては稿を改めるとして、ここでは主に隠匿移動について考察していきましょう。
ウォーゲームにおいて隠匿性を採用する理由は、大きく2つあります。
1つはリアリティ、もう1つはサプライズです。
いうまでもなく、現実の戦争はつねに情報が不確実です。相手の戦力、意図、配置、行軍経路など、挙げだしたらきりがありません。そしてゲームを現実に近づける手段の1つとして、これらの情報を相手に伏せるということが考えられます。
つまりある戦いを再現するウォーゲームの場合、実際に不確実だった情報を隠すことでリアリティを感じさせることができます。たとえば、アウステルリッツの戦いで霧が発生したためにフランス軍の正確な位置がわからないとか、ガダルカナル戦において、ジャングル内の日本軍の配置と移動が隠される、などという具合です。
一方で、このリアリティはプレイアビリティの低下とトレード・オフの関係にあります。これについては後述しましょう。
もう1つの理由であるサプライズについては、主としてゲームの面白さの演出として考えられます。現実の再現としての側面もありますが、それよりも突然現れる敵ユニットや、それに伴って不本意ながら戦闘を強制されたり、突然移動を停止させられたりという不測の事態がゲームプレイの盛り上げ要素となるわけです。なお、サプライズは隠匿性に限ったことではなく、たとえばカードであったり、シナリオによる特別ルールだったりと、さまざまな方法で取り入れることができます。
ゲームを面白くする要素である反面、興ざめしたり反感を買ったりすることと表裏一体のところはあるので、デザインする場合には注意が必要でしょう。
隠匿移動のメカニズムとしては、概ね以下の3種類が考えられます。

プロット式これはユニットを盤上には配置せず、移動経路を紙などに記録する方式です。したがって、相手は敵の位置も戦力もわかりません。
ゲームによって両軍とも採用するケースはあり得ますが、大抵の場合は片側だけ、もしくは戦力の一部のみがプロットされます。
なぜなら、仮に両軍の全ユニットが盤上にない場合、プレイヤー以外の審判が必要になります(もしくは審判に該当するルール)。そうでなければ、いつどこで戦闘が発生するか、まったく見当がつかないためです。
両軍のユニットがプロットによって移動するゲームとしては、空母戦ゲームをはじめとする海戦ゲームなどが考えられます。これは索敵のメカニズムとセットで、まさにお互いを発見することが面白く、主題と一致しているといえます。
ただ、両軍であれ一部であれ、プロット式には大きなデメリットがあります。すなわち移動の管理と判定に手間暇がかかるということです。これは多かれ少なかれ他の隠匿移動のメカニズムにもいえることですが、プロット式がもっともその負担が大きいと言えます。
したがって、ゲームプレイが面白いと思えるためには、プロットを行うべきユニットの数を減らすか、極力シンプルなルールにすべきです。
記録紙によらないプロットとしては、『WAR OF THE RING』で採用された抽象的な方法があります。
このメカニズムでは移動を試みるごとに発見の判定が行われ、発見された時に移動時間に応じた距離だけ進むことになります。どのようなゲームにも採用可能なわけではりませんが、シチュエーション次第では応用することは十分可能なメカニズムです。
また同様に、移動の手段や距離などを予めカードでプロットしておくという方法も考えられます。手段や距離に応じた時間が経過したところでようやくユニットが移動するわけです。大量のユニットの運用には向きませんが、少数ユニットによる戦術級ゲームとは相性がいいでしょう。

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ダブル・ブラインドこれは移動のメカニズムというよりも、隠匿システムの1つとすべきでしょうが、ひとまずここでも触れておきたいと思います。
代表的なゲームの1つとしてGDWの『8th Army:Operation Crusader』が挙げられます。両プレイヤーは同じマップを持ち、互いのマップが見えないようにして自軍のユニットを配置し、未確認のヘクスにはマーカーを置きます。
プレイの進行に伴ってこの未確認ヘクスをコールすることで敵の存在が徐々に明らかになっていきます。
聞いただけでもワクワクするシステムですが、最大の問題はしばしばミスによってお互いの「開けたはずのヘクス」にズレが生じてしまうことです。いわばデジタルゲームが得意とする分野をアナログで行うわけで、面白さの反面でストレスも貯まります。
とくにPCなどの性能が向上した現在では、無理をしてボードゲームでおこなう必要はないのかもしれません。事実、このシステムを採用したゲームの数はさほど多くはありません。
また、変形としては片側だけが隠されている「シングル・ブラインド」も存在します。
ともあれ、『8th Army:Operation Crusader』は今プレイしても面白いゲームであることは確かであり、このダブル・ブラインド・システムに価値がなくなったわけではありません。
ミスが発生する可能性はマップ・サイズとユニット数に依拠するので、いっそのことミニサイズのゲームとしてデザインするのであれば、むしろ面白いものができる余地は大いにあります。
システムそのもののシェイプアップも含め、未だ将来性はあるのではないでしょうか。

ダミー方式フルプロットのゲームは隠匿性には優れていますが、一方でプレイアビリティは低下します。
それをある程度緩和させたのがダミー方式といえます。
敢えていうなら完全情報と完全隠匿の中間、不完全情報ということです。
ユニットはマップ上に存在するものの、その内容はわからず、且つその中の何割かはダミー(偽物)が含まれています。
考えてみれば実際の戦場でも敵の情報が100%わからない状況というのも珍しく、近代戦であればある程度の情報は得られます。
また近代戦に限らず、遙か昔から戦闘が行われる前には偵察行動が実施されることが普通であり、「どの辺にどのくらいの戦力がいそうだ」くらいはわかっているわけです。
 そういう意味では、作戦級ゲームの規模感であれば、まさにダミーを用いた隠匿移動は相性がいいと言えます。
また、ダミーの有無にかかわらず、積み木(ブロック)を使用し、お互いに相手のユニットの戦力がわからないというのも、このカテゴリーに入れていいでしょう。
いずれにしても、相手の戦力が明確にわからない状態での戦いは、少しばかりのリアリティを感じさせてくれ、さらにプレイに興奮をもたらしてくれることは間違いありません。

隠匿判定移動というにはやや強引ですが、ソリティアなどに用いられるメカニズムとして、隠匿状態にあるNPC(non player character)側のユニットの捜索と発見があります。
Victory Gamesの『アンブッシュ!』では、特定のヘクスに進入したり、視界内に入ることがトリガーとなり、敵の発見判定が行われたり、イベントが発生する場合があります。
プレイヤーが動かすユニットは隠匿されておらず、かつ敵側は発見されるまで盤上にいないため、プロット式に近いともいえます。
ベトナム戦争はもちろん、ゲリラやパルチザンなどを相手とした不正規戦との相性がいいでしょう。

以上、隠匿性を採用した移動のメカニズムを挙げてみました。
繰り返しになりますが、利点としてはリアリティが増す、ゲームプレイにおける興奮度を上げる効果などが考えられます。
反面、デメリットとしてはプレイ時間の増加とプレイアビリティの低下は否めません。また、複雑なものになればなるほど、ルール間違いに気づきづらくなるという問題もあります。
意図せず、結果的に「ズル」になってしまったとしても、お互いにそれを指摘できる情報がないことから、だいぶ後になってからそのことに気づく危険性を常に孕んでいます。
ともあれ、ゲームをデザインする場合はこれらのメリットとデメリットをよく吟味し、面白さ>煩雑さとなるようにすべきかと思います。

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時間の分割と移動の継続性

移動の最後として、移動のメカニズムの可能性について少し考えてみたいと思います。
ゲーム内における時間の定義と、移動(力)は相関関係にあります。ごくシンプルに言うなら「区切られた時間内でどれだけの距離を移動することができるか」ということになります。
ここで問題になるのが「区切られた時間」という概念です。
現実世界では時間は区切られていません(区切りのための単位はあっても、一時停止や早送りはできません)。ところが、ボードゲームではどのような形かはともかく、プレイ可能とするために時間を区切らざるを得ません。したがって、この部分は現実と乖離することになります。
そしてこのことは、規模の小さなゲームほど影響が大きくなる傾向にあります。たとえば戦略級のゲームであれば、(デザイン上の)小数点以下の移動力は切り下げるなり切り上げるなりしても誤差の範囲として気にならなくても、1ヘクスが移動できるか否かで勝敗が分かれるような戦術級ゲームの場合は、その設定も含めて妥当性が気になります。
いずれにしても、時間を区切らざるを得ないボードゲームの宿痾のようなものではありますが、それに対して過去のデザイナーたちも苦心しながら様々な方法を考案してきました。

たとえばツクダの『タイガーI』に始まる一連の戦車戦ゲームのシリーズでは、移動をこれまでにないほど細分化したといえます。
1イニング(ターン)は6フェイズに分割され、各フェイズにどれだけ移動したかをシートに記録します。
戦車の性能は個別にチャートにまとめられており、1フェイズに使用可能な移動力も記載されています。たとえば一式中戦車であれば1イニングの移動力は15で、これを各フェイズに分割すると上図のようになります。つまり、1・2・4・5フェイズは2移動力、3・6フェイズは3移動力を消費できます。
さらにこのゲームの凄いところは、移動力の前借りができるところです。
この例の場合、第1フェイズに3移動力が必要な移動を行いたい場合は第2フェイズの最初の1動力まで消費し、それを記録しておくわけです。
この方式は「エンドレス・フェイズ・システム」と名付けられていますが、たしかに移動力の「余り」を出さないと言う意味でシームレスなメカニズムと言えます。
しかし反面、煩雑さは否めません。プレイヤーが戦車戦に何を求めるかにもよりますが、盤面は細切れのような機動にならざるを得ず、プレイ上の爽快感はあまり得られないでしょう。しかし緻密(と思われる)戦車戦を堪能したい人にはうってつけのシステムかもしれません。

また、去年発売されたばかりのLegion Gamesの帆船ゲーム『Captain's Sea』では、これに少し似た移動のメカニズムが採用されています。1ターンを12インパルスに分割し、風向きに応じた移動速度に等しいインパルスに活性化します。ただし、操船に必要なインパルス数(活性化マーカーの数)は1〜3まであるため、すべてのインパルスで移動できるわけではありません。つまり、必要なインパルス数が満たされたら前進なり回頭なりができる仕組みです。
これもまた、時間を細分化したメカニズムと言えます。
また、GDWの『ホワイト・デス』では両軍に等しい移動時間を与えたうえで、どのタイミングでどれだけ使用するのかをプレイヤーに委ねる方法を採用しました。
「スライス・オブ・タイム」と呼ばれるこのメカニズムは、盤上におけるモメンタムや心理的な駆け引きも含め、プレイヤーに「移動をデザインさせる」ものだといえるでしょう。
そしてこれら一般的ではない移動のメカニズムを採用する場合、当然メリットとデメリットが生じます。
先にも挙げた煩雑さやプレイタイムの増加など、ゲームプレイが重くなるデメリットをどのように克服するのか、あるいはプレイヤーに納得させるのか、という点が重要です。
しかし、完全なシームレスを望みえないボードウォーゲームにおいて、どれだけそこに近づけるのかを探求し続けることこそ、重要なことです。
そしてそれは、移動のみならずあらゆる面においていえることです。
ウォーゲームの可能性はまだまだあると筆者は信じています。

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2022年2月20日発行 第163号

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