■コマンドマガジンWEBサイト─SHORT ROUNDS −戦史小ネタ集−

Historical Perspective...


アレクサンダーの山岳歩兵

紀元前327年の初春、アレクサンダー大王は、ペルシアのソグディアナ州(今日のウズベキスタン、タジキスタン、キルギジア、南カザフスタン)の占領をほぼ完了した。残るは南東部の山岳地帯であり、その天然の要害は豪族が支配していた。その一つがオクシュアルテスで、カブールから約400キロメートル北西にある有名なソグディアナの岩砦を守備していた。

 

ソグディアナの岩砦(現代の考古学でもその場所は特定できていない)は、田園地帯にそびえ立つメサ(頂上が平らで周囲に急な崖を持つ地形)のようなもので、巨大な「岩」のようにも見えた。周囲の壁は峻険この上なく、頂に通じる一本の山道を守るだけで良かった。この天然の要害を守っていた、オクシュアルテスの守備隊の規模はわかっていないが(ローマの歴史家クルティウスはその数を3万としているが、明らかに多すぎる)、2年分の備蓄を用意していたという。彼は絶対の自信を持って、女子供を岩砦に連れてきたのだった。

 

岩砦に到着したアレクサンダーは守備隊に対し、直ちに投降するなら身の安全は保証することを確約した。しかしソグディアナ人は嘲笑でこれに応え、岩砦を占領する気なら翼を持つ兵士を先に見つけてこいと、マケドニア軍を挑発したのだった。ティルスでアレクサンダーが何をしたのか、彼らは知らなかったのである。

 

この挑発を受け、アレクサンダーは、登山の経験を持つ志願兵を集め、最初に山頂に登った12人に莫大な賞金を与えることを約束した。約300人がこれに応える。夜の帳が降りるとともに出発、岩砦の最も峻険な場所に──最も守りが手薄と思われる場所にアタックをかけた。夜間の登攀は予想以上に困難で、30人ほどが滑落した──しかし夜明けまでに残りは山頂に達したのである。

 

事前に決めていた通り、兵たちは登攀に成功したことを主力に知らせるために旗を振った。アレクサンダーは伝令を伴い、敵の前進陣地へ向かう。伝令はソグディアナ人に、マケドニア軍は翼を持つ兵士を見つけたと伝え、アレクサンダーが山頂にいる兵士を指さすと、ソグディアナ人はパニックになった。彼らは山頂にいる兵士がどれほど少ないかも考えず、すぐさま投降を申し出たのである。「難攻不落」の岩砦は、こうして一戦を交えることなく陥落してしまったのだった。

 

アレクサンダーは捕虜となったオクシュアルテスの娘の一人、ロクサネに一目惚れして、アジアで一番のこの美女と結婚したと言われている。しかしアレクサンダーはあまり女性に関心を抱かなかったことを考えれば、この結婚は純粋に政治的な目的だったのだろう。オクシュアルテスとこの土地の自分との関係を、より緊密なものにするために。

 

──Richard M. Berthold

 

 関連ゲーム:ALEXANDER