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ウォーゲーム・メカニクス第一回CRTのバナー

◆連載を始めるにあたって

ウォーゲームに限らず、アナログゲーム(1)を構成するためになくてはならないものの1つにメカニクス/メカニズムがあります。

ゲーム・システムと類似していますが、システムはこれらメカニクス以外にもルールやコンポーネントを統合し、全体として、あるいは大きな部分としてまとめ上げたものといえます。しかし「カード・ドリブン・システム」や「ダブル・ブラインド・システム」のように、システムを名乗ったメカニクスも少なからず存在します。

ところで振り返ってみると、これまでウォーゲームをシステムやメカニクスの面から考察した記事というのは、どちらかというと日本では少なかったように思います。

ゲームを作ろうと考える人はもちろん、プレイを楽しみたいと思っている人にとっても、数多あるシステムやメカニクスを整理し、再認識することは決して無駄なことではないでしょう。

また、ウォーゲーム特有のメカニクスのボードゲームへの応用や、反対にボードゲームからウォーゲームへの応用の可能性もあるのではないかと思います。

そこでこの連載では、さまざまなシステムやメカニクスを取り上げ、それを検証し、そして将来のゲームデザインの一助になるような記事を執筆していければと考えています。

◆CRTとはなにか

ウォーゲームをウォーゲームたらしめているものの1つにCRTがあると思います。
ウォーゲーマー諸氏には釈迦に説法でしょうが、CRT、すなわち戦闘結果表のことです。
振り返って、ボード・ウォーゲームの成立とCRTの誕生は軌を一にしています。

最初のウォーゲーム『タクテクス』には、すでに戦闘比をベースとしたCRTが採用されていましたが、この作品が今で言うところの作戦級に該当することから、これは理に適ったことだったといえるでしょう。
戦争の勝敗を科学的に分析しようと試みるとき、ある程度規模が大きな戦闘は数学的にその答えを求めることができます。
ごく単純に言えば、数が多いほうが勝ちます。しかし近代になるにつれてその「数」を構成する要素が多岐にわたり、また複雑化してきました。それゆえ、単純な兵士の多寡だけで勝敗が決まるわけではありません。

無論これは古代においてさえそうで、兵士数をベースとして、天候や地形、指揮官の優劣など、あらゆる要素が変数として存在します。
それでも、ざっくりと括れば、双方の戦力を比較することで戦闘の結果を予測することは不可能ではありません。
一般的に言って、双方の戦力が同じなら、攻撃側より防御側のほうが有利です。なぜなら防御側は我に有利な地形を利用できるし、陣地を構築することもできるからです。また必要なら待ち伏せのための兵力を配置することもできるでしょう。

したがって、同数の戦いなら攻撃側に不利な戦闘結果になる可能性を高めるのが道理ということになります。
つまり、1:1の戦闘力の比率、すなわち戦闘比では、よほどの幸運に恵まれない限り攻撃が失敗に終わる可能性を高くすることが、CRT作成の基礎となります。
これを大前提として、題材とする戦争や戦闘によってCRTの内容をどうするかは、ゲームデザイナーの手腕を問われるところであり、またその史観や思想が現れるところでもあります。

ともあれ、数千人、数万人規模の戦いをゲーム上で処理する方法として、戦闘比を使用したCRTは考案されたわけです。
そして数十年の時を経て、数多くのウォーゲームが作られたのと同時に、多種多様なCRTもまた考案され、採用されてきました。
もちろんCRTが存在しないウォーゲームも多々ありますが(2)、CRTがウォーゲームを成立させる主要素の1つであることに異論はないでしょう。

◆CRTってなんですか?

事ほどさように、ウォーゲームとCRTは切っても切れない関係にあるわけですが、CRTを知らないウォーゲーマーがほとんどいないのとは対称的に、一般的なボードゲーマーでCRTを知っている、あるいは理解している人は決して多いとは言えないようです。

ここに掲載したのは先日Twitterで実施したアンケートの結果ですが、誤差も含め、概ね7割程度のボードゲーマーはCRTというものを認識していないと見ることができます。

考えてみればそれも当然の話で、CRTもしくはそれに類するような概念を採用したボードゲームはそれほど多くないからです。

それに加えて、近年急増しているボードゲーマーのうち、一定数は5分から10分程度で終わるパーティゲームを好む、いわゆるライト層と呼ばれる人々だろうと類推されます。
ただ、ここでは敢えてライト層ではない、中量級〜重量級を好むボードゲーマーを対象として考えてみたいと思います。

一応誤解のないように書いておきますが、これはライト層を切り離したり、眼中にないということではなく、あくまでもより親和性の高い層に対してアプローチするほうが効果が大きいだろう、ということです。砂漠に水を撒くより、肥沃な大地を耕すほうがより多くの収穫が見込めるというものです。「戦力は集中してこそ意味がある」ということは、ゲーマーの皆さんには釈迦に説法かと思います。

さてそれでは、ボードゲームにウォーゲームほどCRTが採用されていないのはなぜでしょうか。
そのもっとも大きな理由は、前述のように「それを必要とするゲームが少ない」からでしょう。
もともと「ドイツゲーム」とそれに類するユーロゲームは、戦闘そのものを好まない傾向にあります。日本とはまた違った意味で「戦争」をあえて遠ざけている感じがします。

これに対して、いわゆる「アメゲー」と呼ばれるアメリカ発祥のボードゲームは、比較的戦闘要素に寛容であるといえます。ゆえに、ウォーゲームなのかボードゲームなのか、どちらにカテゴライズすべきか迷うゲームもしばしば登場しています(3)。また、最近ではそのようなゲームはミニチュアを付属させるケースも多いです。

しかしこれら殴り合い前提のアメゲーでも、やはり通常はCRTを使用していません。
多くの場合はダイス一振りで解決するか、さもなければカードによる処理が採用されています。
すでにお気づきかと思いますが、要するに、CRTを使用した戦闘解決方法は、他の手段に比べて手間がかかり、煩雑なわけです。

日頃CRTに慣れ親しんでいるウォーゲーマーにとってみればどこが煩雑なのかと思われるでしょうが、実際に戦闘を1回解決するたびに表を取り出し、該当する表を探し出し、必要な行と列を確認し、ダイスを振り、時に修正したりシフトを適用し、ようやく答えが出てくるのです。

これに比べて、双方の「値」を確認してダイスを一振りして決まるのでは、どちらが簡単か、比べるまでもありません
詰まるところ、プレイアビリティとスピード感の問題です。
そして一般的なボードゲーマーは、おそらく個々の戦闘の結果に一喜一憂するよりも、最終的な勝敗に関心を持つのではないでしょうか。

また、一般的にいってボードゲームの多くはイコール・バランスです。そのためゲームの勝敗は運の要素より、自らの選択と決断によって決まるべきと考える傾向が強いといえます。

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◆タクティクスIIのCRT戦闘比を使った戦闘結果表で、攻撃側戦闘力を防御側戦闘力で割り、単純な整数比に直す。その際、端数は防御側に有利なように切り捨てる(例 攻撃側:防御側で5:3の場合、1.66:1となり、最終的には1:1になる)。
戦闘比が決まったらダイス(サイコロ)を1個振り、その交差する欄を参照する。その欄に書かれたものが戦闘結果。
Aは攻撃側、Dは防御側を表す。
elimは全滅、backは退却、Exchangeは相互損害を表す。
たとえばD elimなら、その戦闘に参加した防御側のユニットはすべて盤上から取り除く。A back 2なら、その戦闘に参加した攻撃側のユニット(駒)をすべて2マス分退却させる。
Exchangeの場合は、その戦闘に参加した防御側のすべてのユニット(駒)を取り除き、その合計値以上の攻撃側のユニット(駒)も取り除く。

◆ボードゲームへの応用

それではCRTのメリットとは何でしょうか?
1つは、項目が多岐にわたり、複雑な結果を求める場合に有用です。乱暴な言い方をすれば、修正項目その他を一々記憶せず、表を見て適用すればいいわけです。
たとえばボードゲームにおいても、縦軸に相場の値段(乱数)、横軸に野菜の種類と個数を設定し、交差する欄に買値と売値を記載すれば、その処理は簡単です。
さらに、このような表を用いれば、必ずしも結果を値段と個数の積算にせず、二次関数的な傾斜を付けることも可能となります。

また、戦闘比による戦闘結果は、なにもウォーゲームだけに使用されるべきものでもありません。
戦闘力の比較でなくても、たとえば彼我の領地の割合や、所有する宝物数の比較でもいいでしょう。
乱数の決定方法にしても、ダイスに限らず、カードやチットを用いたり、木製キューブを掴んだ数にするのもありです。
重要なのは、何が目的で、それをどのように提示するかということ。そしてプレイヤーの無駄な負担を減らすということです。

考えてみれば、我々が何の疑問もなく使ってきたCRTという「装置」も、本来は戦闘処理を迅速に解決して結果を提示するためだったはずです。
形はどう変わろうが、この本質部分はボードゲームであっても変わりません。
CRTという、この古くて枯れたメカニクスが、ボードゲームに持ち込まれるとどのような化学変化を起こすのか、非常に興味深いと思います。

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◆スコード・リーダーのCRTこの戦闘結果表では、防御側の能力は関係ない。横軸は射撃を行った攻撃側の火力合計値、縦軸は6面体ダイス2個の合計値を表す。
たとえば射撃を行ったユニット(駒)の火力合計値が12で、サイコロを2個振った合計値が7だった場合、その交差する欄を参照すると「1」という結果が得られる。
結果の「KIA」というのは、攻撃対象となったユニットが除去されることを意味する。
数字と「M」の結果は、攻撃対象のユニットが「士気判定」を行わなければならないことを示す。
士気判定は、ユニットに記載されている「士気値」を参照し、6面体ダイス2個を振り、士気値以下を出せば成功する。その際、戦闘結果で得られた数字がダイスの修正値となる(1の結果ならダイスの合計値に1を加算する。つまり失敗しやすくなる)。
失敗した場合、ユニットは裏返されて行動不能となる。

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  • 【注釈】

  • (1)ここでいうアナログ・ゲームとは、電気がなければ成立し得ないデジタル・ゲーム以外のゲームを指します。
  • (2)たとえば6面体ダイスの特定の出目を命中値として相手に損害を与える、いわゆる「6出ろ」システムは表を必要としません。
  • (3)『Axis&Allies』はその嚆矢と言えるでしょうし、『MEMOIR44』や『Tide of Iron』などもこれに含まれます。
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2020年6月20日発行 第153号

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