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第19回 時間の概念 2のバナー

前回はウォーゲームと時間の関係について、プレイ可能なゲームとして成立させるために時間が区切られていること。そしてそれを表現するためにターン制をはじめ、プロット式や交互手番というメカニズムが採用されてきたことを述べました。
今回はそれを踏まえて、アクション・ポイントのメカニズムと、時間そのもののコントロールについて考察していきたいと思います。

アクション・ポイントの採用

交互手番とともに採用されることの多いメカニズムの一つに「アクション・ポイント(AP)」制があります。ここでは各プレイヤーに一定数のAPが与えられ、それを消費することでユニット(スタック)を活性化させて移動や戦闘などを行わせるメカニズム、とひとまず定義しましょう。ただAP制といっても、その用い方には様々あります。

  1. @:一手番ずつ交互に行うが、手番に消費するAP数は任意
  2. A:カードなどに記載されているAP数を消費(CDSなど)
  3. B:一定のAP数を消費したら手番が移る
  4. C:手番毎に使用可能なAP数がランダムに決まる

@のケースは、多くの場合1ターン(あるいはゲーム全体)で消費可能なAP数が規定されていて、プレイヤーの裁量によってどのタイミングでどれだけのAPを投入するかを決められます。この場合、戦機を見る目が重要で、ここぞというタイミングで一気にユニットを動かしたり、あるいは攻撃を仕掛けたり、ということができるゲームになります。その一方で、一気にAPを投入することでその行動が不発に終わった場合、その後の敵の行動への対応が難しくなったりもします。戦いに波があるような、戦術級ゲームなどと特に相性が良いと思われますが、やり方次第で作戦級に採用しても面白いゲームになります。

Aのケースはカード・ドリブン・システム(CDS)に採用されることが多く、交互に行うという点では@と近い関係にあります。また、他の項目にもいえることですが、APによって行える行動の種類というのも重要です。CDSにおけるAPの使用にしても、移動にのみ使用して戦闘はAP不要というものもあれば、戦闘にもAPが必要というものもあります。AのケースはAPに限った話ではありませんが、カードを交互に使用するため、読み合いや駆け引きという心理戦の要素が強くなる傾向にあります。

Bは一度に消費可能なAP数が決められていて、それが尽きたら相手に手番が移るというケースです。交互に数ポイントずつ消費していくパターンや、自分の手番に全て消費してから、相手のターンになるパターンなどがあります。エリア・インパルス・システムと相性が良いと思われます。

Cは振れ幅が大きく、バランスを調整するのが難しいメカニズムです。ランダムに決まる幅を狭めればバランス的な問題は解決しますが、しかしそれだとそもそもランダム要素を入れる必要があるのか、という別の問題が発生します。

このメカニズムを採用する場合は、上限と下限を設定した上で、あまり極端に振れすぎないようにデザインすることが求められます。たとえば固定値+乱数の合計をAPとしたり、設定上防衛側にあたる陣営に多少のボーナスを付加することなどが考えられます。

デザイン的にはやや難しい部類に入るかと思いますが、ゲームの流れが流動的でプレイするたびに展開が異なるため、破綻が起こらない程度にバランスを収束できればリプレイ性を高めることに繋がります。そういう意味では、どちらかというと短時間でプレイ可能なミニゲームや戦術級に向いていると言えるかもしれません。
なお、これらと少し似たケースに『オンスロート』(TSR/CMJ)の「アクション・ステップ」があります。本作では連合軍が第1アクションを実行後、両プレイヤーがダイスを振り合い、より大きい目を出したプレイヤーが次のアクションを実行します。ダイス結果が同数か両プレイヤーがパスしたらアクションステップは終了となります。また、アクションを行うためには補給ポイントを消費する必要があり、この補給ポイントをAPと考えれば@の亜流と捉えることもできます。

本作やCのケースは概して派手な展開になってゲームとして面白い反面、事故も起こりやすいといえます。そういう意味ではシミュレーションよりもゲーム性を重視しているともいえるでしょう。またAP制は概してターン制に比べると駆け引き要素が強いのが特徴で、戦術級かそれに近い規模のゲームに採用されていることが多いように思います。

このAP制を「時間」という観点から考えると、時間の価値あるいは時間コストが可変で、プレイヤーの裁量によってある程度コントロールされているといえます。AP制はいわば時間をポイントに変換し、各行動に時間価値を設定したうえで、その使用する量やタイミングをプレイヤーに委ねたメカニズムです。したがって固定された等しい時間を各プレイヤーが消費するターン制とはその点がもっとも異なる点です。

ところで、APはターンを跨いでの持ち越しは不可とされることが多いのですが、持ち越し可能ななんらかの理由や裏付けがあるなら、絶対的なものではありません。むしろデザイン的にはそうしたタブーに挑戦するほうが、面白いゲームが生まれたりするのではないでしょうか。
最後に、AP制を採用した交互手番のゲームとしてAcademy Gamesの『Conflict of Heroes』について少し詳しく見てみましょう。ちなみに本作は1ユニット=分隊を表す戦術級ゲームで、ゲーム規模としては『スコード・リーダー』に近い存在です。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

なお本作は数次にわたる改訂が行われており、筆者自身が最新バージョンのルールに追いついていないのですが、根本的な部分は変わっていないと思います。本作では両プレイヤーにシナリオ毎に定められたAPが与えられる他、コマンド・アクション・ポイント(CAP)も与えられます。プレイ手順としては1アクションごとの交互手番で、両プレイヤーのAPが尽きるか、パスが連続すると1ラウンドが終了します。

各ユニットは原則として1ラウンドに1回行動が可能で、行動するためにAPを消費します。この時、任意の数のAPをCAPで賄っても構いません。これは指揮(官)の介入を意味していて、CAPが多ければ多いほど柔軟な指揮ができることを表しています。
プレイが進み、ユニットが除去されると、そのユニットはAPトラック上の現在の上限値のマスに置かれます。ラウンドが終了するとAP値は上限まで回復しますが、除去ユニットが置かれたマスはないものとして扱われます。つまりユニットが除去されるごとに使用可能なAPが減少していくわけです。こうなるとCAPの重要性がさらに増すことになります。

このように本作におけるAPはゲームの進行に応じて可変である点、APを補うCAPの存在によって質対量の状況を再現可能であることなど、交互手番のゲームとして非常に優れた作品だと筆者は考えます。
またこのCAPの導入によってAP制を多層化することに成功しており、プレイヤーの決断に深みを持たせています。本作におけるプレイヤーの立場は前線指揮官であり、このCAPの使いどころや使い途はまさに指揮官の決断そのものだといえます。その意味で本作はメカニズムとテーマが見事に合致しているといえるでしょう。

制限時間

楽しい時間に終わりは付きものです。ゲームにおいてもそれはしかり。なんらかの形で、ゲームの「終わり」を規定するのもデザイン上とても大切なことです。一般的にウォーゲームの終わりは2種に大別できると思います。
すなわち、

  1. @:どちらかの勝利条件(敗北条件)が達成されたら終了する
  2. A:一定時間が経過したら終了する

@は将棋やチェスなどと同じで、ボードゲーム全般にも用いられています。しかし条件が達成されない限りゲームが終わらないため、収束性という点ではやや劣ります。そのため近年ではこの終了条件の採用は減少傾向にあると思われます。ボードゲームでいえば『モノポリー』や『カタン』などがこれに該当します。

またウォーゲームではRichard Borg氏の「Command & Colors」シリーズなどがこれにあたります。本シリーズの多くはシナリオで規定された数のメダルを先に獲得した陣営が勝利します。
メダルは敵ユニットの除去の他、マップ上の要地占領などでも得られます。ただ本シリーズの弱点として「先に動いた方が負け」という側面があり、時間制限がないと無意味にプレイ時間が伸びることがままあります。
それを回避するために、シナリオによっては時間制限を付している場合もあります。なおウォーゲームにおける「サドンデス(自動勝利条件)」も@に含まれると考えていいでしょう。

Aは多くのウォーゲームで採用されているもので、ごく一般的なケースではターン数が規定されています。つまり、最終ターンになったらゲームが終了し、その時の状況あるいは得点などによって勝敗を決定します。
これは多くのボードゲームにも採用されています。Aの最大の利点は「いつゲームが終わるのか」が明確な点です。しかしそれは利点ばかりともいえず、終わるのがわかっているからこそ、逆算してプレイするケースもまま発生しがちです。

これは必ずしも悪いこととも言い切れませんが、あまりに計算が先立ってしまうと、プレイして面白いか疑問に感じることはあります。またウォーゲームのように残り時間から考えて「ここから先のプレイは不毛」と対戦者同士が納得して協議終了する場合はよいのですが、複数人でプレイするボードゲームの場合、負けが確定しているプレイヤーが消化試合のようにプレイするのも、やはり面白みには欠けると思います。
そのため、最終ターンまで勝敗がわからないようなゲームデザインが理想ではあります。とはいえ、デザイン的に見ればこれはなかなか困難なことでもあり、ゲーム全体が複雑になっているほどバランス調整も難しくなります。

そこでもう一つの方法として「一定の時間内に収束はするが、いつ終わるかに幅がある」ようにデザインすることもできます。たとえばゲーム全体が10ターン+αだとしたら、11ターン以降にダイスで判定するとか、終了判定チットを引くといった具合です。すべてのゲームに有用というわけではありませんが、ウォーゲームの場合、程よい緊張感をもたらしてくれる可能性があります。

このメカニズムを上手く取り入れた作品に『続・八甲田山』というゲームがあります。BANZAIマガジン14号の付録となった本作は、これが処女作という和栗南華氏によるもので、とにかく見所満載のゲームです。ゲームの終了条件はロシア側にのみ存在し、クロパトキンの「恐怖値」+1d6が11以上なら終了します。つまり恐怖値が5以上になった段階からゲーム終了の可能性が発生するわけですが、この恐怖値はロシア側のカードデッキをシャッフルするたびに1上昇します。

したがって、プレイヤーはある程度終了をコントロールできるし、終わる可能性は認識できますが、確実性はありません。また本作の優れた点の一つに、カードの運用方法があります。ゲームはCDSの一種で、手番にカードをプレイすることでアクションまたはイベントを実行します。ここまでは普通なのですが、本作は手札が0枚になったら原則として敗北します。そして前述のように、ゲーム全体として規定ターン数があるわけではなく、終了するまでプレイは続きます。

では手札補充はどうするかというと、カード補充のためにカードを消費する必要があります。すなわち、カードに書かれた補給値の分だけ山札から引くわけです。したがって、どのタイミングでカードを補充するかはプレイヤーに委ねられています。これは、ある意味で時間をコントロールしているともいえます。ボードゲーム界隈ではよく、アクションを控えたりパスしたりする時に「このターンはしゃがむ」などと言ったりしますが、本作はまさに正面切ってこれをデザインしたゲームだと思います。

CDSのゲームで手札の内容が良くないために、不本意ながら「しゃがまざるを得ない」ことはままありますが、本作のカード補充は明らかにこれとは異なり、相手との駆け引きも含め、最良のタイミングを見計らって(時にはどうしようもなく)自らの判断でしゃがむわけです。そしてゲームの終了フラグはまさにこのカードの山札と直結しており、その意味ではある程度までゲームの終了を自らの手でコントロールしている(あるいはさせられる)わけです。すでに絶版になっていますが、機会があればぜひプレイしてみてほしいゲームの1つです。

未来へのヒント

紙幅も尽きてきたのでやや駆け足になりますが、以下、今後のウォーゲームの参考になるようなことを幾つか述べたいと思います。これまで「区切られた時間」について述べてきましたが、ボードウォーゲームでありながら、リアルタイムでプレイする作品もあります。kickstarter発の『Company of Heroes』というゲームがそれで、砂時計を用いて3分の間にアクションを実行しなければなりません。もっとも、このリアルタイムのルールはどちらかというとオマケ的要素で、通常ルールは交互手番のAP制です。

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それでも、リアルタイムにプレイすることをルール化した意義は大きいと思います。これに類似したメカニズムを持つ作品に『War Time』というゲームもあります。本作はファンタジーを題材としており、時間処理にやはり砂時計を用います。ウォーゲームでありながら、アクション要素も備えた一風変わったゲームです。また、戦術級ゲームなど1ターンが数分を表しているようなゲームの場合、手番に時間制限を設けるというのは、これまでと違ったプレイ感をもたらしてくれる可能性があります。

一方、可能性という点ではボードゲームにも多くのヒントがあります。詳細は省きますが、『テーベの東』という遺跡発掘ゲームや『アンドールの伝説』におけるタイムトラックの使い方はウォーゲームにも応用できるかもしれません。

また、『沖縄』(3W/CMJ)のようにプレイヤーターンが非対称であったり、『装甲擲弾兵』シリーズのようにイニシアチブによってそのターンでの行動が制限されたりというように、時間価値が異なるデザインはまだまだ開発の余地が大いにあると思います。時間の概念はウォーゲームと切っても切れない関係にある以上、さらなる進化や発展に期待したいところです。

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2023年6月20日発行 第171号

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