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第18回 時間の概念のバナー

ウォーゲームが何らかの事象の模擬である以上、時間の概念とは切っても切り離せない関係にあります。この点は多くのボードゲームと一線を画するところといっても過言ではないでしょう。
もちろん、多くのボードゲームでも進行管理のためにラウンドやターンというメカニズムは採用されていますが、その多くは現実の時間との関連性は皆無、もしくは薄いものといえます。
つまりウォーゲームにおける「時間の概念」は、ウォーゲームをウォーゲームたらしめる重要な要素の1つといえます。
というわけで、今回からウォーゲームと時間の関係について考察していきます。

区切られた時間

一般的なウォーゲームでは、時間管理のための最上位概念(用語)に「ターン」が用いられることが多いと思います。これをさらに細分化して「フェイズ」「インパルス」「ラウンド」などが併用されます。
余談ですが、この時間を表す用語について、ウォーゲーム界隈とボードゲーム界隈では微妙な差異があるように思います。ボードゲームではウォーゲームの「ターン」にあたる用語に「ラウンド」を当てていることが多く、ルールを読んだりプレイをしていると屡々戸惑うことがあります。
そもそもターンもラウンドも英語であり、ネイティブの人には自明のことなのかもしれませんが、その用法の違いがどこから発生するのか、なぜ異なった用語を用いるのか、筆者は明確な答えを持ち合わせていません。
あくまで推測ですが、ターンには「交代」のニュアンスがあり、ラウンドは「周回」の意味合いとして用いられているのかもしれません。

ただ、明らかにウォーゲームと位置づけられるAcademy Gamesの『Conflict of Heroes』ではウォーゲームの「ターン」に当たる用語に「ラウンド」を採用しており、交互手番の本作における「ターン」は各プレイヤーの「手番」を指します。
いずれにせよ、本稿ではウォーゲームの一般的な用語使用方法に則って、ターンを最上位の概念として話を進めます。
先日入手した高梨俊一先生の『シミュレーションの歴史を語る30のゲーム ――じゃんけんからウォーゲームを経て卓上RPGまで』によると、19世紀前半には既に時間を意識したゲームが誕生していたようです(ライスヴィッツ親子によるウォーゲーム)。

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このゲームは審判員による裁定が必要で、1ターンを2分間と規定し、その時間内で実現可能なことをプレイヤーが指示して審判員がそれを処理する、という段階を踏みます。
その2分間がリアルタイムなのか、あるいはゲームにおける時間規定なのかはわかりませんが、ともあれ時間を意識してデザインされていることは間違いありません。
このゲームでは時間によって行動(とその限界)の規定、意志決定(とその限界)の規定がなされていると思われます。つまり、指揮官として「区切られた時間」における最良の決断が求められているわけです。
それではそもそもこの「区切られた時間」とは一体いかなるものなのでしょうか?

ターン制という概念

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言うまでもなく、現実世界における時間は連続しており、区切られてはいません。「1日」「1時間」「1分」というのはあくまで人間が生活をするうえで便利なように設定されたものであって、本質的に時間は切れ目なく進行します。
したがって、なんらかの模擬を前提とするウォーゲームの場合、実時間とゲーム時間が完全にリンクすることがより正確な模擬といえます。

しかし実際にはそれは困難なことが多く、またゲームスケールによっては事実上不可能なこともあります。たとえば英仏100年戦争を最初から最後まで再現しようとすれば100年以上の歳月が必要であり、1人の人間では行い得ないことになります(数世代にわたってプレイするというなら話は別ですが)。

またそうでなくても、ゲームとして成立するためには都度判定とその処理が必要であり、リアルな戦争では存在しないこの行為が度々挟まれることで、実時間とリンクすることは現実的とはいえません(6月6日にノルマンディ上陸作戦のゲームをプレイするというのは、これとは関係なく興奮するものですが)。
したがって多くの場合、紙媒体を用いるウォーゲームでは時間に関してなんらかのデフォルメが行われます。この時に、1区切りの時間単位として「ターン」が用いられるわけです。

ゲームをデザインする立場から考えるとき、この「区切られた時間」をどのように取り扱うかが1つのポイントになります。
すなわち、ゲームで取り扱う範囲はどこからどこまでかという「期間」と、その範囲をどのように切り分けるかという「細分化」の問題です。
期間についてはゲームの題材に依拠することが多く、この期間の決定によっておおよそのゲーム規模(時間/ユニット/マップ範囲)も決まってきます。
そして全体としてどのようなゲームにするかを練り上げていく中で1ターンあたりの想定時間(日数)が決まっていき、また進行手順が整えられていくのと同時にターンあたりの細分化(フェイズやインパルスなど)も決まります。
商業ウォーゲームの嚆矢といえる『タクテクス』において、時間の区切りに「ターン」という概念が用いられ、以後、多くのウォーゲームに採用されてきました。

一般に「ターン制」とはAプレイヤーターンとBプレイヤーターンからなり、両プレイヤーターンが完結すると1ターンが終了します。昔のウォーゲームのルールにはよく「野球における1イニング」という説明が付されていましたが、この一言が示すように、ターン制の基本的なメカニズムは簡潔明瞭で、馴染みやすいといえます。
先に時間は連続していると書きましたが、時間は時に相対する両者に対して等しく定量とは限りません。
経過する時間が同等だとしても、なし得る行為に多寡があったり、処理能力に差があったり、自己以外の理由(天候や偶発的な事故)など、さまざまな理由によって「時間の価値」が異なる可能性があるからです。
しかも戦争をモチーフとするウォーゲームにおいては、相対する陣営は非対称の存在であり、時間に対する比重も自ずと異なります。
たとえば、どちらかの陣営にとって「時間は味方」であり、相手の行動を防ぎきれば勝ち、というのがその代表です。
ここで少し脱線をしますが、ターン制と同じメカニズムを採用する野球においては、どちらかのチームに対して「時間が味方」することはあまりありません(灼熱の甲子園で北国の選手は長時間の試合に不利、とかはあるかもしれませんが)。基本的には一定の時間が経過したら自動的に勝ちとはならないからです。

しかし両陣営が同じ時間を共有するサッカーやバスケットボールにおいては、より多くの得点を得ているチームに対しては時間が有利に働くことがあります。先の例と同じく、守り切れば勝ちだからです。これは、時間というリソースを自軍がどれだけ効果的に使うか/使えるかという戦術の問題ともリンクします。
ともあれ模擬を前提とした非対称のウォーゲームにおける「時間」は、各プレイヤーにとって屡々同等ではないということです。
そしてウォーゲームにおけるこのターン制とは「意志決定サイクル」を表したもの、ともいえます。
この「意志決定サイクルを表す」という考え方はミリタリー・ライターの田村尚也さんの受け売りですが、私自身も同じように感じるところがあります。

ターン制を採用するウォーゲームの進行手順(ゲーム・シークエンス)はさまざまですが、いずれの場合もその時間内(ターン、あるいはフェイズ、インパルスなど)で実現可能な行動からより良いと思われる行動を選択することになります。そしてそこには、指揮官として(あるいは操縦者として)の意志決定が反映されています。
また、このことはウォーゲームにおける重要な要素の1つである「コマンド・コントロール」に通じる部分でもあります。この件については稿を改めますが、ともあれ、一定の「時間の区切り」においてプレイヤーは決断し、その結果を判定し、さらに相手の行動があり、またそれに対して反応することを繰り返すわけです。
しかしこれですべての事象が再現できるわけではありません。ターン制というメカニズムには利点もあれば欠点もあるからです。
たとえば先に触れたように時間の連続性という観点からすると、ターン制は恣意的に時間を区切っています。敢えていうなら区切られた時間を連続することで擬似的に時間の連続性に近づけているともいえます。
それでは、時間の連続性を意識したメカニズムにはどのようなものがあるでしょうか。

同時進行〜プロット式

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ターン制の手番交代という概念にもっとも直球でメスを入れたのが、紙に行動内容を記して処理する「プロット式」です。
そもそも先に挙げた18世紀に誕生したウォーゲームの祖先となる作品群も、その多くはプロット式を採用しており、その意味では先祖返りともいえます。
ただ、1970年代から80年代前半頃に見られたプロット式ゲームの多くは、艦船や航空機などを対象としたもので、単純なターン制では再現が難しい題材のゲームでした。

単純な話、プロット式はターン制に比べて処理が面倒(記入・照合・判定、場合によっては審判)です。これに対してターン制はシステマチックであり、18世紀のプロット式から進化した結果ともいえます。
ただ、プロット式にも利点や美点はあり、情報の隠匿はその1つといえます。またプレイにおける心理的な駆け引きという点においてはターン制よりも優れています。
そうしたこともあり、近年ではカードによるプロットを採用したゲームも多くあります(古くはアバロンヒルの『ガンスリンガー』などもそうです)。

◆交互手番性の登場

一方、ターン制というメカニズムをさらに進化させたのが「交互手番」という概念です。
アバロンヒルの『Storm Over Arnhem』に代表されるような、交互手番を採用した最初のウォーゲームが何か、残念ながら筆者は知りません。しかし古来からあるチェスや囲碁・将棋と同じメカニズムを採用することに、さほど大きな心理的障害があったとは思えません。
むしろ、手順の細分化ともいえる交互手番は、ターン制メカニズムに対する1つのアンチテーゼと捉えることができるかもしれません。
ウォーゲームは再現するその規模に応じて、大きく3つに分類されます。すなわち戦略級・作戦級・戦術級です。

これらのうち、戦略級と作戦級は比較的ターン制との相性が良いといえます。なぜならこれらのゲームは1ターンあたりの設定時間が比較的長く、長いものなら数年や数カ月、作戦級なら数週間から1日、あるいは数時間といったところでしょう。これは、ターン制による意志決定プロセスともマッチします。
一方、1ターンが1時間以内、ことによっては1分以内というような戦術級では、「じっくり考える」という意志決定とは相反します。つまり、時間の連続性がよりシビアに求められることになります。
もちろん『スコード・リーダー』に代表されるようにターン制を採用している戦術級ゲームもたくさんありますが、こうしたゲームではゲーム内時間が実時間を越える逆転現象がしばしば発生します。そのためウォーゲームが進化していく中で、連続した時間により近づけようとして考え出されたのが交互手番だったのではないでしょうか。
一般的な交互手番のメカニズムは、一方の陣営が1つのアクションを実行したら、もう片方の陣営もアクションを1つ実行し……ということを繰り返し、お互いにそれ以上行動ができなくなれば1ターンが終了するというものです。
これは、流動的な戦闘の再現に向いているといえます。また、その瞬間の判断、あるいは敵の行動に対する反応を決断するメカニズムでもあります。

こうした短いサイクルの意志決定の反映、あるいは時間の連続性をより強く意識したいくつものバリエーションが考えられてきました。
たとえば単純な1アクションずつによる交互手番ではなく、1回の手番に複数回のアクションを可能とするもの、なんらかの条件達成によって連続手番を実行可能とするもの、あるいは与えられたポイントを消費することでアクションを実行するものなどさまざまです。
そしてこれらの進化は、双方にとって同価値ではない時間という資源をどのように有効活用するのか、という新たなメカニズムを生み出すことになります。
すなわち、時間の価値をコントロールし、時間そのものを可変とするメカニズムです。
これらについては次回に考察したいと思います。

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2023年4月20日発行 第170号

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