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第17回 ゲームの 帆船ゲーム〈3〉のバナー

今回も引き続き、帆船ゲームの戦闘について考察を進めていきます。
前回は『SAILS of GLORY(SoG)』と『CAPTAIN'S SEA(CS)』の砲撃戦における命中判定について解説をしました。
ざっとまとめると、SoGはミニチュアゲームの判定方法に似て、専用のメジャーを用いて射程を計測。その射程距離に応じた損害判定チットを引くという方式でした。また、命中判定は損害判定に組み込まれており、引いた損害判定チットに当たり外れがあることでそれを表しています。

つまり、SoGの場合は命中判定と損害判定が一度にまとめておこなわれます。
対してCSの場合は、攻撃側の火力数(船体シート上で砲側に割り当てられたクルー数により決定)と、防御側のキャンセル・ダイス(射程距離(マップのスクエア数で判定)と間の煙幕数により決定)を振り合い、双方の有効目を相殺した結果が命中数となります。そして損害判定表でその命中数とダイス結果から損害を判定します。
つまりCSは命中判定と損害判定を2段階に分けて判定しているわけです。

命中判定方法あれこれ

それではここで、他の帆船ゲームについても少し見てみましょう。
本格的な帆船ウォーゲームの嚆矢といえる『Wooden Ships & Iron Men』では、やや煩雑な処理をおこないます。まず「命中決定表」を参照して、自艦の火力と目標までの距離から基本命中値を確認します。これに各種修正値を加減した結果、参照すべき「命中表」が決定します。命中表は0から8まであり、各命中表には船体とリギング(索具)の欄があります。攻撃側は船体とリギングのどちらを目標とするか宣言し、該当する命中表を参照して6面体ダイスを1個振り、結果を出します。
したがって、本作の場合も命中判定はなく、火力(=砲門数)と射程に応じて参照すべき命中表が決まり、それによって損害判定を行うことになります。

ちなみに表上における最大火力(13)の艦が最大射程(7〜10ヘクス)で砲撃をおこなった場合の基本命中値は「0」で、クルーレベルが一般的で球弾を使用した場合、修正値は「0」なので「命中値0」表を参照することになります。そしてこの表では船体に対する砲撃だと1/2、リギングに対する砲撃なら1/3でなんらかの損害が発生します。
次にStrategy&Tactics85号の『Fighting Sail』をみてみると、こちらは一風変わった判定方法を採用しています。大雑把に説明すると、6面体ダイスを2個振り、各艦に記載された射撃値以下を出せば命中となります。この時、2個のダイスのうち1個は10の位、1個は1の位を表します。したがって結果は11〜66までの範囲となります。そして射撃値とダイス結果の差により、最終的な命中値(1〜3)が決まります。この時、射撃値とダイス結果の差が同数から40までなら1命中、41から80なら2命中、それ以上なら3命中となります。ダイス目が66までしかないのにそれ以上があるのは、修正の結果、最終射撃値が66以上になる可能性があるためです。

たとえば各種修正を加えた最終射撃値が55で、ダイス結果が51だとしたら1命中といった具合です(56ならハズレとなります)。
なお、有効な判定ダイスがゾロ目の場合、「致命的な損傷」が発生します。また、命中数はそのまま損害となります(たとえば船体に対する砲撃で命中数2はそのまま船体ダメージ2となります)。
なかなかユニークな判定方法ですが、各艦の射撃値をどのような基準で算定したのかは、デザイナー目線で気になるところです。

このように見てくると、命中判定と損害判定を1度に処理してしまうケースが多く、CSが例外といえるのかもしれません。そしてそれは恐らく、CSがフリゲート艦による1対1の戦いの再現というシチュエーションの特異性に起因しているためなのでしょう。他の作品は概ね艦隊戦ないしは複数艦同士の戦いなので、あまりに細かい判定だとプレイアビリティが低下するという判断かと思います。
これは陸戦戦術級にもいえることで、部隊規模によって戦闘解決方法がある程度決まってくるのと同じです。

損害判定方法

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

さてそれでは、各作品における損害判定方法及び損害適用はどのようなものでしょうか。
大抵の帆船ゲームでは、攻撃側が目標部位を選択できることが多いようです。すなわち船体かリギングかです。
言うまでもなく、帆船の主動力源は風とそれを受ける帆です。したがって帆やマストに損害がでればそれだけ速度低下に繋がり、最終的には航行不能に陥ります。
この時代の戦闘は必ずしも敵船を沈めることだけが目的ではなく、拿捕して自国の軍艦として再利用することも珍しくありませんでした。
このため敵の行き足を止めて降伏を迫ったり、拒否された場合は白兵戦を仕掛けて拿捕するのも日常茶飯事だったわけです。

このような事実を反映して、帆船ゲームでは射撃部位を選択できることが多いわけですが、SoGでは例外的にそれがありません。もちろん帆やマストに対するダメージは存在しますが、それはあくまで判定の結果でしかありません。
なぜSoGでは目標部位の選択がないかというと、それは損害判定方法に理由があります。
SoGでは複数種類の判定チットを用いますが、それは距離と弾種により規定されています。この損害判定チットを引くという判定方法ゆえに、もし部位による選択も入れるとなると判定チットの種類を2倍にする必要が出てきます。それはコスト的にも、煩雑さの面でも現実的ではありません。

代わりにSoGでは弾種にその役割の一部を担わせ、鎖弾の砲撃では帆やマストへの損害が多めに配分されています。
話が少し先走りましたが、改めてSoGの損害判定方法を説明すると、まず弾種によって引かれる判定チットが分けられています。一般的な球弾の場合は長距離ならAチット/短距離ならBチットを、攻撃をおこなう艦の砲撃力に等しい枚数分引きます。また鎖弾ならCチット、ブドウ弾ならDチットですが、これらの弾種は短距離でしか効果がなく、長距離での砲撃は無効となります。

最後に、マスケット銃による攻撃もあり、これはEチットが引かれます。ただしマスケット銃の射程は極端に短いので、白兵戦がおこなわれる直前でないと実質実行できません。
なお、各種砲弾は事前に装填しておかなければならず、装填済みのものはキャンセルできません(空撃ちは可能ですが、装填時間はロスします)。
ここで各判定チットにおける損害結果の分布を見てみると(損害表参照)、長距離では6割、短距離なら8割の確率でなんらかの損害が発生することがわかります。基本セットに入っているイギリス戦列艦の砲撃力は「4-6-4」で、それぞれ前方射界・中央射界・後方射界の砲撃力を表しています。したがって、長距離であっても中央射界での砲撃なら3枚ないし4枚が命中する確率です。

最後に、マスケット銃による攻撃もあり、これはEチットが引かれます。ただしマスケット銃の射程は極端に短いので、白兵戦がおこなわれる直前でないと実質実行できません。
なお、各種砲弾は事前に装填しておかなければならず、装填済みのものはキャンセルできません(空撃ちは可能ですが、装填時間はロスします)。
ここで各判定チットにおける損害結果の分布を見てみると(損害表参照)、長距離では6割、短距離なら8割の確率でなんらかの損害が発生することがわかります。基本セットに入っているイギリス戦列艦の砲撃力は「4-6-4」で、それぞれ前方射界・中央射界・後方射界の砲撃力を表しています。したがって、長距離であっても中央射界での砲撃なら3枚ないし4枚が命中する確率です。

このようにSoGでは判定結果に「0」という無効のチットを入れることで、命中判定を省いているわけです。
そして損害結果ですが、実数値は船体への損害を表し、それ以外に乗員のみへの損害、船体損害+αという結果があります。
船体損害は各艦の船体シート上にある船体ボックスに、被った数値マーカーを置いて示します。そして各艦ごとに設定されている船体値まで貯まると次のボックスに置きます。そしてこの船体ボックスには砲撃力の現在値も記載されているため、船体損害が嵩めば、その分だけ砲撃力が低下することがわかります。CSに比べればざっくりした処理ですが、シンプルかつ理に適った方法だといえます。

また乗員損害も同様に、乗員損害マーカーを乗員ボックスに置いて損害を示しますが、こちらのボックスはマスケット火力とアクション数の現在値を示しています。つまり、乗員損害が増えれば、それだけ実行できるアクションが減っていくわけです。
また、鎖弾やブドウ弾は同じ短距離の球弾に比べて乗員殺傷能力が高いことがわかります。さらに前述のように鎖弾は他弾種に比べてリギングへ損害を与える可能性が高く、約2割の確率となっています。

この他、マストへの損害を被ると運動カードもそれに応じたものしか使用できなくなったり、浸水や火災は修理や消火をおこなわない限り損害が自動的に累積します。
本作の場合、各ターン開始時にアクションをプロットしておく必要があり、砲弾の装填はもちろん、修理や消火活動、帆の上げ下ろし、そしてマスケット射撃や斬り込みもプロットが必要です。
そしていざ戦闘が開始されるとお互いになんらかの損害が増えていくのと反比例して可能アクション数や砲撃力が減っていきます。まるでヘビー級ボクサーの撃ち合いのようにボロボロになっていく様は帆船の戦いらしさを上手く演出しているにように思います。
シミュレーションとして見てしまうとややオーバーな処理をしているようにも見えますが、ゲームとしてはとても楽しく、完成度は高いといえます。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

これに対してCSの損害判定はSoGに比べるとやや煩雑です。
まず目標部位を選択(船体かリギングか)してから損害影響標を参照し、6面体ダイスを3個振って最終的に決定した命中数と交差する欄を確認します。この時、各種ダイス修正も適用します(目標に対する風向き、乗員モラル、帆の展張具合、弾種、縦射か否かなど)。そしてこの修正も帆の展張についてはリギングに対する砲撃の時のみ影響するとか、モラルによる修正も目標部位に応じて変わるなどかなり細かく規定されています。

じつはこの細かさには理由があり、6面ダイス3個の中央値付近、すなわち9〜11の目を境に、大きい数値ほどリギングに対する損害が出やすく、反対に小さい数値ほど船体に対する損害が出やすい表になっているためです。そのためリギングを狙った砲撃の場合、乗員モラルが高ければプラス修正、船体を狙った砲撃では乗員モラルが高いとマイナス修正が付きます。そして数値が両端に近いほど、狙った部位への損害が大きくなるように設定されているわけです。

損害の種類は船体(H)・リギング(R)・乗員(C)の組み合わせで表され、被った損害はただちに船体シート上の該当マーカーを動かして記録します。たとえば船体への損害であれば、船体ボックスのマーカーを下にずらすわけです。この時、原則として前部及び後部の船体ボックスは均等に損害を被らなければなりません。また、この船体ボックスは砲撃力にも連動しているため、火力も低下することになります。
さらに判定はこれに留まらず、モラル判定もおこなわれます。損害判定で振る3個のダイスのうち、1個は色違いのものを使用します。この色違いダイスと命中数の結果を士気影響表で参照し、そこに示された数値でモラル判定を実行することになります。

本作においてはモラルが非常に重要な要素のため、最初はなかなか低下しませんが、いったん下がり始めると加速度的に低下していく傾向があります(さまざまな場面でモラル値が修正として用いられるため)。

まだ続きます。

損害影響表の上部列または下部列にある命中数を示す欄が赤色になっている場合、火災が発生する可能性があります。具体的にいえば、リギングに対する命中が3以上、船体に対する命中は4以上で火災が発生する可能性があります。この場合、火災発生判定もおこなわれることになります。
このように、文章として書き出すとかなり煩雑な印象を持たれるかもしれませんが、実際に2〜3度経験すればすぐに慣れますし、修正方法にしても判定項目にしても、必要にして最小に抑えられているように思います。その意味ではじつにスマートにデザインされている印象を受けます。

なお、先に挙げた『Wooden Ships & Iron Men』の場合、損害の種類はCSと同じで、被った損害数分だけシート上の該当マスを消すことで処理します。またこのゲームの場合、『Fighting Sail』と同じく致命的命中があるのが面白いところです。
しかしSoGにもCSにも致命的命中として別枠のルールはありません。ゲームとしてはたしかに盛り上がるルールですが、ややゲーム寄りな印象も拭えません。

古い2作には採用され、比較的新しい2作にないというのは、偶然なのかそれとも進化なのかわかりませんが、興味深いところではあります。
このほか、帆船ゲームの戦闘としては白兵戦についても分析を進めたいところだったのですが、紙幅の問題もあり、今回はここまでにしたいと思います。
以上3回にわたって帆船ゲームの移動と戦闘のメカニズムについてみてきたわけですが、同じ帆船ゲームでありながらSoGとCSではかなり異なるシステムを採用していることがわかります。それは帆船という題材は同じでも、目指すべきもの、あるいは再現したいものが異なっているがゆえの結果といえます。

もちろんこれは帆船ゲームに限らず、他のウォーゲームにもいえることです。
このように同ジャンルのゲームを分解して比較してみると、新たな発見や気づきがあります。そしてこれはある意味で、ウォーゲームの1つの楽しみ方ともいえるのではないでしょうか。
次回は「時間」の概念について、考えていきたいと思います。

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2023年2月20日発行 第169号

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