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第15回 ゲームの 帆船ゲーム〈2〉のバナー

前回に引き続き、今回も帆船ゲームについて考察していきたいと思います。
前回は帆船の移動についての概略、および『SAILS of GLORY(SoG)』と『CAPTAIN'S SEA(CS)』という2つのゲームにおける移動の扱いをざっとご紹介しました。今回はこれをもう少し掘り下げるとともに、戦闘のメカニズムについても考察を進めていきます。
まず両者のデザイン思想における違いですが、筆者が見るところ、SoGは機動を重視しており、一方CSは移動も含めた「操船」に焦点を当てたデザインなのではないかと考えています。
SoGの移動メカニズムの詳細は前回を参照していただくとして、ごく簡単にまとめるならば、移動の航跡が描かれたカードを2手先までプロットし、それを同時に公開して移動処理をおこなうというものです。
そこでそのカードの内訳ですが、これは国籍や艦種によって異なっています。本作の基本セットには4隻の船が同梱されており、イギリス艦2隻・フランス艦2隻という構成です。また、それぞれ戦列艦とフリゲート艦が1隻ずつとなっています。
そして移動カードのデッキはフリゲート艦は両国艦船とも37枚、戦列艦は29枚で構成されています。なお、いずれのデッキも11枚は固定になっていて、裏帆状態とマストが折れて漂流する場合のカードがこれに該当します。

つまり、フリゲート艦であれば26枚、戦列艦であれば18枚が自由に選択できるカードというわけです。これは戦列艦に比べてフリゲート艦のほうが3割ほど移動の自由度が高いと考えることもできます。
さらにカードの詳細を見ていくと、もっとも速力がでるブロード・リーチ(斜め後方から風を受けている状態)における各艦種の直進距離は表1の通りです。
これによると、速度に差が出づらい縮帆状態ではいずれも同距離ですが、フリゲート艦と戦列艦では戦闘帆や満帆状態で明らかな違いが見て取れます。

ヘクスやスクエアを用いる一般的なウォーゲームの場合、恐らく両艦種の移動力差は1とか2でしょう。もちろん、そもそもの移動力設定を大きくすればその差は大きくできますが、タイムスケールを考慮するとあまり現実的とはいえません。
1ヘクスが表す距離とタイムスケールによりますが、たとえば1ターンに10ヘクスくらい動けるとなると、それだけの時間を消費していることになり、砲撃〜装填〜射撃準備完了というプロセスが1ターンで完了してしまうかもしれません。つまり毎ターン自由に砲撃できることになり、帆船らしさは失われます。
それを考えると、SoGの移動メカニズムはかなり大胆にデフォルメしているともいえます。これは元が空戦ゲームのメカニズムを流用しているからということもあるでしょう。
しかし他の多くのウォーゲームと異なり、ヘクスやスクエアを使用しないため、あまり違和感は感じません。いわばアクチュアルゲーム(ミニチュアゲーム)により近く、それをシステマチックに落とし込んだメカニズムといえます。
そしてこのような方法を採用することで、国籍や艦種による小さな差も表現することに成功しているわけです。

そしてもう一つ、運動性能についても見てみましょう。各艦船には「VEER値」という運動性能を表す数値が設定されています。そして各移動カードにもこの値が記載されています。
現在場に出ている移動カード(つまり、たった今艦船が移動に使ったカード)に対して、次に使用される移動カードのVEER値はその艦船のVEER値との差内に収めなければなりません(詳細は前回を参照してください)。
つまりVEER値が高い艦船ほど急激な運動が可能となっています。そこで艦種毎の内訳を示したのが表2です。

中央値の5は直進ないしはそれに近い運動で、両端に行くほど急回頭となります。したがって、そもそも戦列艦はフリゲート艦のような急角度の回頭はおこなえない上に、右から左への回頭(あるいはその逆)にも制約があります。
ちなみに英仏ともに戦列艦のVEER値は5ですが、フリゲートは英8・仏7となっていて、フリゲートの運動性はイギリスが優位です。また、先の移動距離と合わせて考えると、イギリスのフリゲート艦は移動に関してとても優秀なものとしてデザインされていることがわかります。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

一方、CSは原則として登場する艦船がすべてフリゲート艦ということで、移動力そのものに大きな差はありません。
しかしすべて同一というわけではなく、違いはむしろ艦というハードよりも、乗員というソフトにあります。
各艦船には「船体」というパラメータがあり、これは最終的な移動力を決定する際のボーナスに影響します。
前回も述べたように、本作は2艦が同航している場合、相対速度は0、つまりマップ上での動きはありません。ただし、この基本移動力に加えて、船体による移動力ボーナスが1〜3の範囲で加えられます。

たとえば高速タイプなら1/2の確率で+3ですが、低速なら1/6です。ただし6面ダイス1個の判定なので、その差は大きくはありません。
これに対して、各艦船には乗員の設定が細かくなされており、さらに乗員の艦内配置をどのようにするかが操船にも影響してきます。
さきの船体ボーナスにしても、乗員の練度がダイス修正として加えられます。
あるいは主導権獲得判定のボーナスや、装填速度、白兵戦におけるダイス修正など、移動以外にもさまざまな局面で参照されます。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

また、乗員をどの部署に配置するかも重要な判断で、各砲列に割り当てられた乗員数に応じて戦闘時の火力も変化することになります。
このように、CSは移動に関しては敵味方で大きな差異は生じない一方で(そもそも移動が数インパルスに1スクエア動く程度)、全体を通じて乗員の管理が勝敗に大きく影響するデザインとなっています。
要するに、SoGが砲撃で優位な位置を占めるために機動することを重視したデザインなのに対し、CSはいかに適切に乗員をマネジメントするかに重点を置いたデザインといえるでしょう。
そしてこの違いは、当然戦闘のメカニズムにも反映されているわけです。

さてそれでは、ここからは帆船ゲームの戦闘について考えていきます。
まず最初に、帆船の戦いにおける戦闘方法と、それに付随する項目を洗い出してみましょう。
帆船における戦闘は大別すると2種に分けられます。すなわち砲撃と白兵戦です。さらに細かくいえば(一応)船首による衝角攻撃や狙撃なども考えられますが、ここでは割愛します。
つまり帆船ゲームにおける戦闘は、この砲撃と白兵戦をどのような手法で再現するのか。またデザインしようとするゲーム全体を俯瞰したときに、どのようなメカニズムを採用するのが適しているのか、ということになります。

まず帆船ゲームにおける砲撃という攻撃手段をルール化するときに必要となる項目には以下のようなものがあります。

  • ・距離判定
  • ・視認判定
  • ・射程および射界(縦射)
  • ・装填(弾種)
  • ・人員配置
  • ・帆の状態
  • ・射撃目標(帆または船体)
  • ・命中判定
  • ・損害判定(特殊損害)

なかには内容的に重複していたり、ゲームによっては不要なものもあります。また、ここに挙げた以外でも必要な項目はあるかもしれません。
要するに、これらの項目をどのように落とし込んでいくか(あるいは省略するか)ということが、そのゲームの善し悪しを決めることになります(もっともこれは、戦闘だけでなく他の部分でも同じですが)。
上記の項目を大きく分けると、命中判定・損害判定・管理に分類できます。そこで、まずは距離や視線・射界など命中判定に関わる部分を中心に見ていくことにしましょう。
ヘクスやスクエアといったグリッドがないSoGの場合、射程距離の判定には専用の定規を使用します。すなわち、艦船ミニチュアの射界に応じた砲撃基部から目標に向けて定規を置き、その定規の長さ以内に収まっていれば砲撃可能というわけです。

これは一般的なアクチュアルゲームと同じような手法で、最大のメリットは360度の全周に渡って自由に射線を設定できる点です。その一方で、手動で判定をおこなうため、僅かな「揺らぎ」が生じる可能性があります。すなわち、砲撃艦あるいは目標艦が判定の際に数ミリ程度動いてしまうかもしれません。また、自由に射線が伸ばせる反面、当たったか当たっていないかの微妙な位置の命中判定が難しいケースが生じることがあります。
アナログの判定というのは、これら全ての事象をルールで厳格化することには向いていません。そのため、多くの場合プレイヤーの良心に任せることが多いように思います。したがって、厳格なルール裁定を求めるプレイヤーには不向きなメカニズムということはできるでしょう。

もっとも、これは私見ですが、趣味のゲームにおいてあまりに厳格なルール適用を求めることは、楽しさを損なうデメリットのほうが大きいように思います。
ともあれ、プレイヤーの「気持ち」はさておいても、このようなアナログ手法はある程度プレイヤーを選ぶ可能性があることは押さえておくべきでしょう。
なお、SoGで用いられる射程判定のための定規は3色に色分けされていて、このうち半分より短い位置は近距離、それより遠い位置は長距離での命中となり、判定時に引く損害判定マーカーの種類が異なります。
またSoGにおける射界は各艦船ごとに設定されていて、艦船ミニチュアを載せるカードに射界が印刷されています。この射界が前方・中央・後方に分類され、火力もそれに応じて規定されています。ついでに書いておくと、損害判定時にこの火力に等しい枚数の損害判定チットを無作為に引き、その結果を目標艦に適用することになります。

さらにSoGの砲撃では、命中判定と損害判定は同時に解決されます。損害判定チットには「ハズレ」も含まれているため、命中判定を分ける必要がないわけです。
これはなかなか優れたメカニズムといえます。もちろん好き嫌いはあるでしょうが、1回の砲撃(射撃)について、何段階もの判定をおこなうのはプレイタイムを長引かせ、プレイがダレることにも繋がります。ゲーム中に数えるほどしかないならまだしも、何度もおこなわれることであれば、各判定の時間短縮はゲームの印象に馬鹿にならない影響を及ぼすものだと考えます。
このようなSoGの距離判定に対して、CSはマップにスクエアを採用しており、射程距離の判定は当然このスクエア単位でおこないます。本作ではスクエアの辺を跨ぐ移動は2移動ポイント、頂点を越えての移動は3移動ポイントを要します。簡単にいえば、縦または横への移動は2移動ポイント、斜めの移動は3移動ポイントが必要ということです。この設定によりスクエアの弱点である斜め方向の移動が克服されています。
そして射程距離の判定はこの移動ポイントを用いるわけですが、その前に本作の砲撃ルールを簡単に解説しておきましょう。

本作の砲撃判定はSoGとは異なり、いくつかの段階を踏んで解決します。まず最初に、目標が射界内に入っているかどうかを確認し、同時に射程距離を測ります。この時、最大射程は24移動ポイントとなります(前方および後方のみ砲撃できるカロネード砲は6移動ポイントまで)。次に目標艦の目標部位(船体か、リギングか)を決め、命中判定のためのダイスの数を算出したらそれらを振り、各種修正値を加えて5以上の目がすべて命中となります。
続いて、防御側ダイスを決定します。射程距離の移動ポイント数を2で割った数(端数切上)に、射線内にある砲煙マーカーの数値を足した数が防御ダイスになります。これをすべて振り、各種修正を加えた結果が5以上の目は有効となり、その数だけ命中ダイスを減じます。
こうして命中数が確定したら、続いて損傷影響表で6面体ダイスを3個振り、命中数と交差する欄が損害結果となります。
さらにこの損害適用も細かく設定されているのですが、それは次回に改めて解説しましょう。

戦闘解決方法の説明が少々長くなりましたが、本作における射程距離判定はスクエアを単位として移動ポイントによって計測され、距離の長短が命中判定に影響を及ぼしているわけです。つまり射程距離が長ければキャンセルされる可能性が高まり、反対なら命中数が多くなる確率が上がるということです。そして命中数が多くなるほど損害が大きくなる可能性も高まるのは当然のことです。
したがってSoGの距離判定は2段階しかないのに比べ、CSはスクエア単位で変化するわけで、射程距離の差がより細かく砲撃結果に反映されることになります。
反面、CSの砲撃解決はSoGに比べると処理手順が多く、ダイス修正も多岐にわたります。慣れるまではやや煩雑に感じますが、しかしその分だけ細かくさまざまなことがフォローされており、また納得のいく処理方法だといえます。
この両作品の違いは、そのまま両者が目指していることの違いでもあります。

次回はSoGとCSを中心に、戦闘解決方法についてさらに深く切り込んでいきたいと思います。

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2022年12月20日発行 第168号

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