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第15回 ゲームの 帆船ゲーム〈1〉のバナー

今回から数回にわたって、帆船ゲームについて考察していきたいと思います。
帆船ゲームといえば、まず第1に風力を利用した移動に特徴があります。そこで今回はこの移動のメカニズムにメスを入れ、その後、移動とも関係する戦闘関連のメカニズムについて見ていこうと思います。
なお、今回はあくまで帆船に絞り、古代におけるガレー船(櫂船)については原則として取り上げません。古代の海戦も非常に興味深い点が多いので、こちらは回を改めて考察したいと考えています。

◆帆船は風が命

さて、一口に帆船ゲームといってもこれまで数多くのタイトルがリリースされています。古くはフランスの『Armada (1967)』というゲームがあり、これは日本のエポック社からも『大海戦ゲーム』という名で販売されていました。ただしこれはファミリーゲームの範疇で、本格的なウォーゲームとしてはやはりアバロンヒル・ゲーム/バトルラインの『Wooden Ships & Iron Men (1974)』がその嚆矢といえるでしょう。

その後、Strategy & Tactics85号の付録として『Fighting Sail(1981)』や、Clash of Arms Gamesから『Close Action(1997)』が出版されました。またミニチュアゲームとしてもさまざまなルールが考案・販売されています。
そして近年では帆船ミニチュアを使った手軽なボードゲームとして成功した『SAILS of GLORY(2013)』や、斬新なプロット・システムを採用した『CAPTAIN'S SEA(2021)』があります。
これら以外にも多くの帆船ゲームがありますが、今回は『SAILS of GLORY』と『CAPTAIN'S SEA』を中心に考察を進め、必要に応じて他のゲームにも触れていきます。
ところで、言うまでもないことですが帆船とは帆を張った船のことで、その移動には「風力」が欠かせません。凪いでどうしようもない時には人力も使用したようですが、それは例外といえるでしょう。まして帆走軍艦が戦闘する場合であればなおさらです。

この帆船と風力・風向の関係というのが案外厄介なもので、船乗りでもない限り直感的にわかりづらいところがあります。
かくいう筆者も操船に関してはまったくのド素人であり、書物による知識くらいしかありません。ゆえに間違いなどあったらご指摘いただけると幸いです。
とはいえその詳細を語るのは本稿の主旨ではありませんので、ごく簡単に帆船がどのように動くのかを説明したいと思います。
直感的には、帆船の真後ろから風を受けている状態がもっとも速度が出ると思われがちですが、実際には斜め後方から風を受けるのがもっとも効率が良いとされます。

逆に、進行方向の反対側から風を受けた場合(つまり向かい風)、行き足が止まるか逆走すると思いきや、実際にはそうともいえません。
このあたりがややこしいところなのですが、帆船の帆は必要に応じて向きを変えることができ、そうやって風を捕らえることで風力を推進力に変えるわけです。ですから向かい風の状態でも帆を操作することで低速ながら動くことは可能です。また、そうやって風を受けて徐々に方向を変えながら少しずつ進むわけです。
細かいことはさておき、ゲームにおいては「どのように風を受けて、相手より優位な位置につくか」が問題となります。また多くの場合、デザイン上の焦点もここに当てられることになるでしょう。

◆移動の種類

帆船ゲームの移動では、プロット方式が採用されることが多いように思います。すなわち、事前に移動先または移動方向を記録し、同時に公開して移動を処理するわけです。そのプロットの方法にはいくつかの種類があります。

『Wooden Ships & Iron Men』の場合は、古いゲームによく見られる記録用紙に直接書き込むタイプです。たとえば「L1R2」と書いてある場合、左に60度回頭後1ヘクス前進。さらに右に60度回頭して2へクス前進という処理をおこないます。
プロット方式が採用されるにはそれなりに理由があり、多くの帆船ゲームは戦術級かそれに近いゲーム規模で、同時進行性が重視されるからでしょう。また、未来位置の読み合いが時には勝敗を左右することも多いためです。

戦闘については改めて書きますが、帆船に限らず、船同士の戦闘は彼我の位置関係で有利不利が決まります。帆船の場合、舷側砲がメインの火器となるため、相手に対して横を向けることでより多くの砲門が砲撃可能となります。反対に、相手の舷側に対して正面ないし背面を向けることは不利になります。
したがって相手の未来位置を予測しつつ、いかに有利な位置を取るかが重要になるわけです。
また同じプロットでも『Fighting Sail』ではプロット内容が異なり、移動方向(直進とか左回頭とか)を船ごとに与え、公開されたのちにその移動力に応じて処理します。ただし、本作の場合は移動は同時処理ではなく、風上の支配権を持つプレイヤーがその順番を決定するのが面白いところです。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

◆SAILS of GLORY

さて、それでは帆船ミニチュアを使用した『SAILS of GLORY』ではどのような方法を採用しているかといいますと、一言でいうなら「カードプロット方式」ということになります。
各船には性能に応じた固有の移動カードが与えられていて、2手先までこのカードをプロットします。カードには長短および方向の異なる航跡が描かれた複数種類があります。そしてこのターンに使用するためにプロットされていたカードを船の前に置き、その後、船のミニチュアをいったんどかしてカードの矢印の先に合わせて置き直します。こうすることで、カードの移動軌跡分だけ移動することになるわけです(図参照)。

すでにご存じの方も多いと思いますが、本作は同様のメカニズムを採用した『WINGS of WAR/GLORY』の後継作であり、ゆえに似た部分も多くあります。
ちなみに筆者は高度変化を伴う航空機の戦いより、二次元の海戦ゲームのほうがこのメカニズムに馴染んでいるように思います。
また、本作の移動における風の影響はシンプルかつスマートで、各移動カードには矢印が3本描かれており、帆の状態(満帆か戦闘帆か縮帆か)によってどの矢印を用いるのかが決まります。さらに、風を受ける方向によって、移動できる距離に差が出ます。各矢印は2段階になっていて、ビーティング(斜め前方からの風)やランニング(真後ろからの風)なら短い矢印の先まで、ブロードリーチ(斜め後ろからの風)なら長い矢印の先まで船を移動させます。
要するに、1枚の移動カードに帆の状態と風向きにより6パターンの移動軌跡が描かれているわけです。
そしてこの船に対する風向は、ミニチュアを載せているカードに風向きインジケーターを当てることで簡単にわかります。帆船のカードには各方向が色分けされており、移動カードの矢印と一致しています。このあたりは直感的にプレイ可能なようにうまくデザインされています。

そして本作においてもう一つ特徴的なのが、「VEER」と呼ばれる運動能力による移動制限です。このVEER値は各船に設定されており、かつ移動カードにも記載されています。そして次にプロットする移動カードは、現在の移動カードに船固有のVEER値を±した値が限界値となります。
たとえば船のVEER値が2として、現在の移動カードのVEER値が4だとすると、次にプロットするカードのVEER値は2〜6でなければなりません。
つまり、極端な機動を連続しておこなうことはできず、また大船ほどその制限は厳しくなります。

また、テイクン・アバック(裏帆/逆帆)の場合は前述の処理とは少しだけ異なります。ある意味で、この裏帆の扱い方は各帆船ゲームにおける特徴になるといえるかもしれません。
本作における裏帆の処理は専用の移動カードを用いておこないます。移動の結果、風向きが裏帆(つまり向かい風)の状態になってしまったら、プロットしていた移動カードは破棄され、代わりに破棄した移動カードのVEER値に対応した裏帆用のカードを使用します。そして矢印に従って少しだけ後退しつつ向きを変えます。それでもまだ裏帆の状態から抜け出せないと、次ターンにはさらにより大きく動く裏帆カードを使うことになります。
この処理はじつにスマートで、裏帆になった状態からの向きの変化がとても自然に再現されているといえます。

この移動カードのプロット方式の利点は、船ごとの移動性能差を反映できること、状態の変化や風向きにも細かく対応できることでしょう。また移動処理を同時におこなうことで、船同士の衝突や接舷戦闘(の試み)も無理なく処理されます。
なにより、相手の未来位置を予想するという点と非常に相性が良いメカニズムといえます。
なお、2010年に頒布された同人ゲームに『WINDS OF CARIBBEAN』という作品があります。この作品も『WINGS of WAR』のシステムをヒントに、それを帆船ゲームに落とし込んいて、当然移動カードによるプロットです。ただし風向きのルールは導入されておらず、そのぶん移動処理はとてもシンプルです。

とはいえ、細かいルールがないおかげで、ゲームプレイは位置取りの読み合いに専念でき、手軽に楽しめる好ゲームです。
もちろん『SAILS of GLORY』よりも前にデザインされており、そういう意味では各作品の進化過程とデザイン思想を比べてみるのも面白いです。

◆CAPTAIN'S SEA

一方、より新しいゲームである『CAPTAIN'S SEA』は、『SAILS of GLORY』とはまったく異なる移動メカニズムを持ちます。
やはりプロット方式を採用していますが、本作は『Fighting Sail』と同様に、移動種別(直進とか回頭とか)をプロットします。
また、『SAILS of GLORY』がヘクスやスクエアなどのマップを使用せずに机上でそのままプレイするのに対して、本作はスクエアマップを採用しているところも『Fighting Sail』と似ています。
本作の移動方法が独特なのは、風向きに対して彼我の船の移動力を相対化させた点にあります。本作はもともと、フリゲート艦同士の1対1の戦闘に主眼をおいているため、このような処理を採用することができたといえます。

本作では彼我の船がそれぞれどのように風を受けているかにより、各ターンのそれぞれの移動力が決定されます。つまり完全な同航戦の場合、移動力に差はありません。
そしてこの移動力に若干のランダム要素を加えて、そのターンの速度が決定されます。この速度は、そのターンにおこなえるアクション数を規定します。
1ターンは12インパルスからなり、インパルス・トラックには速度に応じた数値が記載されています。たとえば、このターンの速度が6ならば、インパルストラックの「6」と記載されたすべてのマスに自分の活動カウンターを配置します。つまり、速度が大きいほど配置される活動カウンターの数も多くなり、より多くの移動アクションが可能になるという仕組みです。
これはかなりクレバーな処理で、理解すると「なるほど!」と唸らされます。

そして各移動方法には必要なアクション数が決められており、インパルスが進んで活動アクションマーカーが貯まると、自動的に発動されます。要するに、より風を受けている側は相手より自由に動き回ることができることが無理なく再現されています。
そして本作ではスクエア・マップを採用したことにより、8方向への移動が可能となっていて、ヘクスに比べてより細やかな移動ができます。正直なところ、8方向あればプレイの体感上、アナログな機動とそれほど差はないように思います。
そして、それでいて移動や射撃の際には等間隔のマス目で計測できるので、誤差が発生しづらくなります。
その点、アナログ的な『SAILS of GLORY』は、移動も射撃もミニチュアが僅かに動く(ずれる)可能性があり、精度的にはやや劣ります。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

もっとも、これは好みの問題も多分にあるので、どちらが優れていると一概にいえるものではありません。
このように本作が採用した移動のメカニズムの利点は、スクエアマップの採用によって移動や戦闘に際して誤差が生じづらいことで、その計測も簡単です。
また1ターンを細かく分けることで、風を捕らえている側の有利さを再現することに成功しているといえます。
しかし一方で、そのことはデメリットにもなっていて、たとえばターンまたぎの際にやや不自然さが生じています。

さらにいえば、移動そのものに対する爽快感はありません。本作では1回の移動では1マスしか動きません。またこのことは、プレイ中の「驚き」を少なくしています。というのも、プレイを重ねるうちに、相手のプロット内容が容易に推測できるようになるからです。つまり、選択の余地がそれほど多くなく、移動も細切れのために推測しやすいのです。
ただ、誤解のないように書いておきますが、だからといって本作がつまらないというわけではありません。むしろその逆で、帆船ゲームに興味のある人なら、その斬新なプロット方式と、個艦の管理(クルーの配置や損害適用など)によって、タイトル通り帆船の「艦長」を体感できる希有なゲームといえます。
このことは、突き詰めていうならそれぞれのゲームが再現しようとしていること、プレイヤーに体感して欲しいとデザイナーが考えたことの違いでもあります。

総じて、『SAILS of GLORY』はアナログ的であり、『CAPTAIN'S SEA』はデジタル的だといえます。そしてそれ故に切り捨てた部分があります。前者はシミュレーションとしての正確さ、後者は時間連続性の割り切りです。
しかし、その切り捨てたものを上回る良さがあるからこそ、両作とも面白いゲームになっているといえます。前者はより興奮するプレイ感を演出するためにルールを直感的なものに絞り、そして派手な撃ち合いを演出しています。
対して後者はより必要な部分は深く掘り下げ、そうでない部分は切り捨て、割り切ることでメリハリをつけ、結果としてプレイヤーの立場を明確にすることでロールプレイが楽しめるようにデザインされています。

帆船ゲームに何を求めるか。
当然それはプレイヤー毎に異なります。
重要なのはその求めているものを提示できるデザインになっているかどうか、です。
すべての人が面白いという作品があり得ない以上、「誰に刺さるゲームを作るか」という視座は、デザイナーとして常に持っておく必要があるのではないでしょうか。

次回は帆船ゲームの移動についてもう少し具体的に考察していこうと思います。

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2022年10月20日発行 第167号

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