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第14回 ゲームの 解析と考察(1)のバナー

これまでウォーゲームの一般的なメカニズムについて考察してきましたが、今回は1つのタイトルに絞って解析・考察を進めてみたいと思います。
今回取り上げるタイトルは、本誌P16〜17(*1)で戦闘メカニズムに触れた『LINCOLN』(PSC)です。本作のメインのメカニズムはカード・ドリブン・システム(以後CDS)で、さらにそれに付随していくつかのメカニズムから構成されています。
ただ、いきなりメカニズムの話をする前に、まずは本作の内容について別項では説明不足の点を補足しておきたいと思います。

◆複数の勝利条件が選択肢を広げる

ウォーゲームに限らず、ゲームを面白くするための要因の1つは、適度な選択肢の多さです。多すぎるとプレイヤーが何をしていいのか途方に暮れますし、少なすぎると何をやっても同じ、という印象になるでしょう。
そしてその選択肢の設定は、勝利条件とも密接に関係しています。言い換えるなら、複数の勝利条件を設定することで、いわゆる「勝ち筋」の幅が増えます。そうすると、ブラフをかけることもできますし、途中で方針転換をおこなうこともできます。これにより、勝敗にかかわらず、プレイヤーの満足感は充足します。つまり、ゲーム(システム)に「やらされた」のではなく、自分がゲームをコントロールした結果、たとえ負けたとしても納得できるというわけです。
さて、それでは本作における勝利条件ですが、自動的勝利条件と、ゲーム終了時の判定という2つがあります。自動的勝利条件は別項でも述べたように、1回目および2回目の山札(デッキ)が尽きた時に判定され、北軍が規定点以上を獲得していないとその時点で北軍が敗北します。また、相手ターンの終了時に敵首都を支配していた場合と、欧州トラックが南軍側の端に達した場合にも自動的勝利が発生します。

他のゲームと同様、通常はこの自動的勝利は発生しないでしょう。しかし重要なのは「これが起こりうる」と相手に考えさせる余地があることです。北軍はつねに山札が尽きるタイミングで現VPを気にしなければなりませんし、お互いに首都をがら空きにするわけにもいきません。つまり、たとえ発生しなくても、自動的勝利条件があることでゲームの幅が広がっているということです。

船と政治家のアイコンもう1つのVP判定ですが、これは各ロケーションに付されたものと、海上封鎖トラックに記された2種類があります。この海上封鎖トラックというのは、カード上部の「船」アイコンを使用することで1マス動かすことができます。カード上部の「配備区画」なので、使用したらゲームから除外されます。
海上封鎖トラックは9マスあり、北軍には船アイコン・カードが12枚、南軍には1枚だけあります。さらに、トラックの進行度合いに応じて、南軍の手札上限が減少します。つまり北軍にとっては進めれば進めるほど美味しいわけで、できるだけ早く進めたいところですが、実際にはそう上手くいきません。南軍の手札を1枚減らすには4マス進めなければなりませんが、開始時の北軍デッキには船アイコン・カードは4枚しかなく、かつ南軍に1枚あります。したがって、南軍が阻止してきたら、たんに自軍の山札の枚数を減らすだけに終わります。つまり、それだけゲームの終了を早めることになり、かつ手札も消費するので、他のアクションが少なくなるわけです。

初見では気づきづらいですが、ここにはデザイナーによる細やかな配慮が見て取れます。
また、南軍の自動的勝利条件である欧州トラックも、配備区画にある「政治家」アイコンで進めることができます。欧州トラックは全部で10マスあり、開始は2番目のマスからです。つまり9マス進めれば南軍の勝利です。しかし政治家アイコン・カードは南軍が4枚、北軍が3枚なので、これだけでは当然端まで届きません。
この欧州トラックは、このカード以外に戦闘で勝利した場合、敗者が失ったユニットの数(戦力ではありません)だけ動きます。動きはむしろこちらのほうが大きいので、カードによる進行は「最後の1押し」ないしはプレッシャーとして作用します。
この欧州トラックの存在は、防御に回りがちな南軍に限定的な攻勢(とくに序盤)を起こす動機付けになっており、プレイヤーは自然と史実に近いムーブを行うことになるでしょう。
以上のように、本作には複数の勝利条件が設定されていて、その結果プレイヤーが取り得る選択の幅も広がっています。相手の選択肢が多いということは、自分はその対応を疎かにできないことを意味します。つまり、お互いにままならないなかで、つねに最良の選択を迫られることになるわけです。

◆カード・ドリブンとして

CDSの定義の話になると、ゲーマーの中には一家言持つ人も少なくないかもしれません。ここではひとまず「ゲームの進行にカードの使用を前提とし、カードになんらかのアクション情報が付されてる」メカニズムとして話を進めます。
多くのCDSに見られる傾向として、カードに複数の情報を記載し(多機能)、カードごとの強弱を調整している作品が多いように思います。また、複数要素を1枚のカードに盛り込むことで、カードの使用タイミングや使用方法の選択肢を増やすことに繋がっています。
ちなみに本作の場合も複数情報が記載され、かつ上下に分割され、使用方法は2種に大別されます。
本作におけるカードには、右の通りの情報が記載されています。

  • ● 補充(戦力、砦、政治家、船)
  • ● 指揮ポイント
  • ● 移動種別
  • ● イベント
  • ● デッキ情報
日露戦争時の日本兵3名が描かれたイラストカード

点線の区切りはカードと同じで、上部は補充区画、下部はそれ以外の情報となっています。
補充は、1戦力以外のアイコンを使用する場合、記載されている枚数分を手札から捨て札し、かつ補充に使用したそのカードをゲームから除外します。つまり、1戦力ユニット以外はゲームに登場する上限があるということです。
これが本作の特徴の1つにもなっていて、いわば減算式の「デッキ構築」といえます。
それでは以下、カード内容の詳細を検討してみましょう。
本作におけるカードの使用種別としては、大きく4つあります。すなわち移動・戦闘・補充・イベントアクションです。

移動を行うためには鉄道アイコンがあるカードを使用します(北軍のみ海上移動ができますが、それは後述します)。メカニズム的には1枚のカードを使用して、1ロケーション内の任意の数のユニットを隣接ロケーションに動かすか、1ユニットを距離無制限で動かすかの2択です。
これ以外にイベントアクションとして「鉄道移動」というものがあり、これは1または2ユニットを距離無制限で移動させられますが、敵ユニットのいるロケーションに侵入させることはできません。
このように移動のメカニズム自体はとてもシンプルです。

ゲーム開始時の山札(以後Sデッキ)に、北軍は25枚、南軍は17枚の移動カードを持ちます。これをデッキ枚数における割合で見ると、それぞれ52%と46%となり、やや北軍のほうが機動力があると考えてよいでしょう。本作の場合、北軍が攻勢側であり、これは妥当な配分だといえます。さらにこれに追加デッキも含めて見てみると、北軍は49%、南軍は38%となり、その差はさらに顕著になります。ただし、山札の2巡目・3巡目は両軍とも除去カードが発生しているので、このままの数値というわけではありません。あくまで傾向として捉えていただければと思います。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

しかし補充によって除外されない補充戦力0〜1のカードだけで見てみると、北軍のSデッキは7枚、南軍も6枚です。補充3のカードはできるだけユニットの補充として使いたいので移動に使うことは稀でしょう。そうなると、機動力の優劣は補充2のカードが重要になってきます。そして移動カードのうち補充2の能力を持っているのは、北軍が10枚、南軍が3枚と圧倒的に北軍が多いことがわかります。
これが何を示唆しているかというと、北軍の柔軟性、つまり移動と補充の選択を南軍よりも自由に行えることがわかります。
ただし、これにはもう1つの要因が絡んできます。それが指揮ポイントで、戦闘時に加算されるポイントです。これも補充と同様、高いポイントのカードは極力戦闘に使用したいので、移動には指揮ポイント0〜1のカードを当てることが多いでしょう。

これを比較してみると、Sデッキにおいて移動可能な指揮ポイント0〜1の北軍カードは15枚、南軍は僅か2枚です。
全体的にみて、やはり北軍のほうが移動に関しては自由度が高いといえます。
またこれに加えて、北軍のみ海上移動が認められています。これはカード左側に船アイコンがあるカードを使っておこなうのですが、このルールの存在により、南軍はもともと少ない戦力を、海岸エリアに貼り付けておかなければなりません。実際に海上移動を行うか否かよりも、そのプレッシャーを南軍に与える影響のほうが重要でしょう。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

ここから導き出されるのは、北軍は南軍を圧倒する補充能力を生かし、数の力で押し切ること。反対に南軍は高い指揮ポイントのカードは必ずホールドしておき、さらにできるなら「高台」や「増援」という戦闘時に不確定要素になるカードによって対抗するということです。北軍が仕掛けてきた攻撃で勝利できれば、さらに次の自軍ターンで反転攻勢をかけ、欧州トラックを一気に進めることもできます。ゲーム中盤から後半にかけて南軍がじり貧になっていくことはほぼ間違いないので、可能な限り前半で貯金をしておくわけです。
最後に補充について考えてみましょう。
前述のように、本作は減算式のデッキ構築ゲームであり、そういう意味でカード枚数を減少させる補充のメカニズムは本作の根幹ともいえるものです。
北軍のSデッキ枚数は48枚、Iデッキが10枚、IIデッキが11枚で合計69枚です。したがって、理論上の北軍手番の上限数は175手番となります。しかし実際は補充などで減っていくため、これよりずっと少なくなります。
できるだけ手番数を増やすには、1山目で除外されるカードを極力少なくすることでしょう。それではその内訳がどうなっているかというと、表にあるように除外されない1戦力カードは13枚だけです。欧州トラックや海上封鎖も我慢すれば20枚は確保できます。残りの2戦力と3戦力をどれだけ補充するか(場に出すか)が北軍としての考えどころとなります。

一方、南軍も除外されないカードは12枚でさほど差はありません。戦力以外のカードを検討してみると、船カードは指揮ポイントが4なので、序盤で除外してしまうには惜しいカードです。砦は防御でのみ2戦力とみなされる戦力ユニットですが、2枚のうち1枚は指揮ポイントが2、もう1枚が4です。したがって指揮ポイント2のほうはいいとして、指揮ポイント4のカードを取っておくかどうかは悩みどころです。また、政治家カード4枚の内訳は、指揮ポイントが1・2・3・5各1枚となっています。指揮ポイントが低いカードはむしろ序盤のうちに除外しておきたいので2〜3枚は使い、5は残しておくというところでしょうか。
残る補充2と3のカードが18枚なので、これをどう使うかは序盤における南軍の方針次第ということになります。

本作に限らず、デッキビルド・ゲームにおいてデッキを構築するということは、方針・方向性をプレイヤーみずからが定め、ゲームプレイそのものをデザインすることだと思います。
また、CDSは各要素が有機的に絡み合い、さらに歴史上の各陣営の性格を反映します。少なくとも本作はその点において大いに成功しているといえるでしょう。
最後に蛇足ながら、CDSゲームをデザインしようと考えている人は、既存ゲームのカード構成を解析・分析してみると、多くの学び・発見があると思います。デザインに取りかかる前に、是非一度やってみることをお薦めします。

次回は帆船ゲームの移動について考察する予定です。

  • 【注釈】

  • (*1)コマンドマガジン166号掲載時に該当ページでゲーム紹介が行われました。詳細は本誌を参照してください。Kindle Unlimited会員ならば無料で、コマンドマガジンの電子書籍版をお読みいただけます。
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2022年8月20日発行 第166号

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