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第13回 スタック 2のバナー

前回、スタックとは特定のスペースに駒を積み重ねることであり、この概念をゲームに導入することで重点形成が容易になる、ということを述べました。
何らかの模擬を前提としたウォーゲームの場合、実際がそうであるように、戦力の集中は局所的な勝利を得るためには極めて重要です。これをルールとして規定しているのがスタックというわけです。
しかしスタックのルールは、なにも戦力の集中にのみ特化しているわけではありません。そのほかにも様々な効果や影響があります。
今回はそれらについて考察を進めてみたいと思います。

スタックと移動

スタックと移動の関係はいくつか考えられますが、集約すると「スタック状態で移動可能か否か」ということになると思います。そしてこれは、ユニット・スケールやマップ・スケールなどとも関連しています。
スタックと移動について、よく目にするのは、移動の際にスタック制限が常時適用されるかどうか、という点です。
常時適用の場合、「すでにスタック上限に達しているヘクスは通過/移動することはできない」とするケースが多く、仮にできてもなんらかのペナルティが科されます(たとえば混乱状態になるなど)。
実際に即して考えてみると、近代戦の場合、たしかに特定の時間内に通過可能な交通量というものはあり、機械化された部隊とそうでない部隊との差も考慮すると、「スタック制限の常時適用」は一見理に適っているように思えます。

しかし「ゲーム」として見た場合、これは必ずしも正解とは限りません。端的に言えば、プレイヤーが何を求めているのか、何を望んでいるのか、ということに行き着きます。
おそらく、ウォーゲームをプレイする人の多くは、盤上での作戦・戦術(運用)を体験したいのであって、「管理業務」を喜々として楽しむ人は少数派ではないかと思います。将軍と業務担当参謀のどちらの立場でプレイしたいのか、ということでもあります。
もちろん、そうした嗜好やゲームを否定しているわけではなく、より多くのゲーマーはどちらを望んでいるのか、という話です。
スタック制限が厳しめ(たとえばスタック不可とか2ユニットまでとか)で、スタック制限が常時適用というゲームで何がおきるかというと、マップに対するユニット密度にもよりますが、大抵は「交通渋滞」がおきます。
これも「バルジの戦い」のように、実際に交通渋滞が起き、それが戦局に影響を与えたような戦闘なら、ある程度は受け入れられるでしょう。

しかしマップにびっしりとユニットが敷き詰められたようなゲームで、移動の順番をあれこれ考えなければならないようなゲームは、もはや何をシミュレートしようとしているのかわからなくなってしまいます。
「パズル的な面白さ」はあるかもしれませんが、それはウォーゲームの本質とは異なるものではないでしょうか。
とはいえ、スタックによって移動が制限されること自体は、うまく使えば面白い演出になったり、題材としている戦闘を再現するための良いメカニクスになってくれることもあります。
一例を挙げると、Academy gamesの『Strike of the Eagle』では、ポイント・トゥ・ポイント(PtP)のマップが採用されていて、敵がいるポイントに攻撃を行う時は、1つの連結路からは4ユニットまでしか接近できないというルールがあります。
ヘクスやエリアのマップでは同様のことを処理しようとすると管理が面倒ですが、PtPなら目標ポイントの手前に置くだけでよく、管理は容易です。そして戦略規模の古代戦、あるいは前近代を題材としたゲームは、このようなメカニクスと相性がいいと言えます。つまり、機械化されていない「行軍」を再現するには適しているメカニクスというわけです。

また、変わったところではアークライトが出版した『Hundred Days Campaign』というワーテルロー会戦のゲームでは、スタックに上限はないものの、一定数を超えると「移動不可」になるルールを採用しています。さらに、このゲームの移動ルールは少々変わっていて、街道移動と平地移動という2種類があるのですが、いずれの場合もスタックを構成するユニット数によって移動できる距離が変化します。たとえば街道移動の場合、1ユニットなら4ヘクス移動できますが、2ユニットなら3ヘクス、3ユニットなら2ヘクスと減少し、5ユニット以上は移動不可となるわけです。
しかもこの街道移動をおこなったユニットは、次ターン以降も自動的に街道移動をおこなわなければならないというルールがあります。
これはナポレオン戦争の時代ということを考えると、いったん動き出した部隊はそう簡単に命令変更をできないという意味で面白い処理だと思います。
ちなみにデザイナーは鈴木銀一郎氏で、改めて「なるほど!」と唸らされました。
スタックと移動についてまとめると、結局はリアリティとプレイアビリティのバランスということになろうかと思います。これに各種スケールや史実性を加味して、プレイヤーに過度のストレスや労力を強いないことが肝要かと思います。

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スタックと戦闘

スタックと戦闘の関連は多岐にわたりますが、いくつか重要だと思われる項目について考えてみたいと思います。
部隊密度シミュレーションを前提としたウォーゲームである以上、殆どの場合、1ユニットあたりの規模(人員数や装備品の数量など)が明示されていることが多いと思います。つまり1ヘクスあたりの部隊密度がどの程度なのか、ということです。
プレイにあたって知らなくても問題は生じないでしょうが、一般的な話として、守備側の担当範囲の妥当性や、攻撃側の戦力投入量なども意識すると、ゲームもより深く楽しめるかもしれません。
このあたりはドイツゲームとは異なる楽しみ方といえるでしょう。
フォーメーション/諸兵科連合効果所属部隊によってスタック制限が課せられたり、同一所属部隊がスタックしていると、戦闘に際してボーナス(たとえばダイス修正など)が得られたりします。
ウォーゲームの黎明期には意識してデザインされることは少なかったかもしれませんが、近年ではなんらかの形で取り入れられていることも多いと思います。
これは史実再現という点でリアリティが増す一方、プレイ負荷が増す可能性を秘めています。
「あと1戦力足りないからどこかから引っ張ってくる」という問題と同様、ボーナスを得るためにユニットのやりくりに頭を悩ませることになりかねません。
またフォーメーションとは異なりますが、諸兵科連合によるボーナスもこれと同じような効果/問題を抱えていると思います。
これらのルールは利点も多いですが、デメリットもあることは意識してデザインすべきでしょう。
リード・ユニット(参加制限) 実際の戦闘では、つねに第一線で全員が戦っていることは稀です。とくに攻勢側については、通常、前線部隊と予備部隊が存在します。
これを再現するために、スタック内でリード・ユニットを指定する方法があります。またこれと合わせて、リード・ユニットの練度や士気値をダイス修正に使うなどの複次効果もあります。
さらに、リード・ユニット以外のスタック内ユニットについて、戦力の加算をどうするのかというのも、ゲームによって様々です(たとえばすべて合算する場合や、ユニット数を加算するなど)。
また、損害が生じた場合にリード・ユニットに優先適用するというルールもあります。
このリード・ユニットに付随して、スタック内のユニットの参加制限というものもあります。たとえば異なるフォーメーションは参加できないとか、単純に参加可能なユニット数の制限などです。
また、先のフォーメーションと合わせ、これらのルールを適用することで部隊ローテーションを自然と演出することも可能です(損害を受けたリード・ユニットに変わって、次の戦闘は別ユニットをリード・ユニットにするなど)。 攻撃方向 一般的には、攻撃側の同一スタック内のユニットは、異なる目標を攻撃してよい、とされることが多いように思います。
しかしこれも絶対的なものではなく、たとえば古代戦などの会戦ゲームでは、禁止されたほうが却ってリアルに感じられるケースもあります。いずれにしても、スタックしているからこそのルールといえるでしょう。
防御側スタック 作戦級の場合、攻撃の目標となる防御側スタックは、多くの場合「まとめて攻撃されなければならない」と規定されているケースが多いでしょう。
しかし作戦級よりも規模が小さい作戦戦術級や戦術級では、そうでないものも多く見かけます。
つまり、防御側スタック内の特定ユニットのみを目標としたり、ゲームによっては複数回攻撃目標とされるケースもあります。
これはゲーム・スケールによる差異であり、再現しようとする事象によって変わってくると思います。
戦闘後前進と退却 戦闘後前進(勝利した側が戦闘後に追加で移動できるルール)に際して、スタックとしてまとめて前進しなければならない、あるいは別々に前進してよい、というルールがあります。
同様に、退却に際しても、スタックはまとめて退却しなければならない、あるいは別々に退却してもよい、というルールもあります。
さらに、退却に際して一時的にスタックオーバーが認められるケースと、認められないケースがあります。
これらはゲーム毎にかなりばらつきが見られ、極端にいえばデザイナー次第ということが多いように思います。
もちろん、適当に決めているわけではなく、たとえば派手な機動戦を再現したければ戦闘後前進は各個におこなってもよいとするでしょうし、防御側の硬直性を演出したいなら分散退却不可、とするでしょう。
要するに、題材次第で変化するものだと思います。

以上、スタックと戦闘に関連する項目を挙げてみました。プレイする際にはあまり意識はしないかもしれませんが、以外と関連事項は多く、デザイン上でも頭を悩ませるところかもしれません。そういう意味では今度も様々な「発明」が期待されるメカニクスでもあります。

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スタックと隠匿性

単純にいって、積み重ねたユニットの下部は通常、見ることはできません。これを利用することで「戦場の霧」を簡単に演出することができます。
すなわち、スタックの一番上のユニット以外は、決められたタイミング以外では確認できない、というルールです。
考えてみれば、実際の戦場で敵の全戦力が的確に把握できていることは殆どなく(最近のウクライナでの戦闘を見ていると、相当な情報が丸裸にされているようにも見えますが)、そういう意味ではスタックを利用した戦場の霧ルールはリアリティを増加させます。
またこれと併用してダミーマーカーのルールを取り入れると、より一層隠匿性が増します。
ただし、その一方でこれはプレイに対する負荷にもなりえます。少なくとも、デザイナーとしては安易に採用すべきではないように思います。他の項目にもいえることですが、費用対効果は常に意識しておきたいところです。

スタックルールの可能性

最後に、スタックのルールの可能性についても考えてみたいと思います。
前回も述べたように、スタックという概念はウォーゲームの歴史の中でも比較的古いものだといえます。それでも、スタックがもたらす効果には、未開拓な部分もあるのではないかと思います。
たとえば、異なる兵種・兵科によるスタックの効果(メリットもデメリットも)や、同一スタック内の異なる質(練度や士気など)の兵員が及ぼす影響など、新たなルールを考案する余地はあるように思います。
あるいは、敵味方が同一ヘクスでスタック可能なゲームの場合、陣営毎ではなく、ヘクスそのものにスタック上限が設定されていたら、重要ヘクスの奪い合いを演出できるかもしれません(目標ヘクスを先に多数で占めたほうが有利)。
また、ミニチュアを併用することで、異なったスタック管理ができるかもしれません。

ちょっとふざけたところでは、スタック制限はないものの、崩れ落ちたユニットはゲームから除外する、などというゾンビゲームもありかもしれません。
このように、一見使い古されたルールも、別の切り口を見つければ、新たな突破口が生まれることもあるでしょう。
そのヒントは、以外と近いところにあったりするのかもしれません。

追記

先ごろ漫画『キングダム』を原作としたボードゲームが発売されました。『カタン』などの販売を手がけるgp GAMESの『キングダム盤上大戦』です。
『キングダム』は中国の戦国時代を題材としており、作中でも幾度となく戦闘シーンが描かれています。その古代中国の戦闘を再現すべく作られたのが本作です。
見た目は将棋などのアブストラクト・ゲームに近いですが、本質的にはウォーゲームといっても差し支えないと思います。ただし、史実の戦闘を再現するわけではなく、盤上で模擬的な戦闘を繰り広げる点はアブストラクト的です。

このゲームは個人的にも気に入っていて見所も多いのですが、中でも注目したのは駒のスタックが可能となっている点です(スタックという用語は使われていませんが)。
原則として1駒は1戦力で、将棋のように相手とぶつかったら戦闘し、同数戦力が相殺されます。つまり、1対1の戦闘ではお互いの駒が消滅します。このため、1部隊に多くの戦力を集中させる(=スタックさせる)ことは、勝利するために重要です。

くわえて、本作では側面・背面から攻撃をおこなうと有利になるルールも採用されていたり、作戦カードによって戦況を動かしたりもできます。
キャラクターゲームとしてだけでなく、ウォーゲームとしても良くできた作品だと思いますので、未見の方はぜひ一度プレイしてみることをお薦めします。

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2022年6月20日発行 第165号

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