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ウォーゲーム・メカニクス第2回ウォーゲームの戦闘解決方法(2)のバナー

前回はウォーゲームの様々な戦闘解決方法ということで、戦力比とファイアパワーについて解説しました。今回はその続きとして、残りの戦闘解決方法について解説したいと思います。

III. “X”出ろ

一般的には「6出ろ」と言われることが多い解決方法です。あえて「X」を用いたのは、ダイスを振る側に有利な目が小さい目だったり、専用ダイスを使用するケースもあるためです。
この解決方法は汎用性が高く、また様々な応用が可能な点が優れいています。一番最初にこの方法を用いたゲームについては確認できなかったのですが、Jedko Gamesの『The War At Sea』が1975年に出版されているので、少なくとも70年代にはすでに存在していたことがわかります。
「X出ろ」のもっともオーソドックスな方式としては次の2種類があります。

  • A.ダイスを1個振り、ユニットに記載されている戦力値以上(以下)が出たらヒット
  • B.スタックの合計戦力数に等しい数のダイスを振り、特定の目が出たらヒット

Bパターンについては、ヒット数がそのまま相手に与える損害数になる方式と、攻防お互いのヒット数の差分が損害数になる方式があります。
「“X”出ろ」は『The War At Sea』がそうであるように、砲撃戦や、双方の撃ち合いを演出するのに向いているといえるでしょう。

Aパターンなら個の戦闘、Bパターンなら大規模戦闘の解決に用いられることが多いように思います。
たとえば、海戦ゲームで個艦同士の撃ち合いが重要な戦術級ないし作戦級ゲームならAパターン、エリアの制海権(支配権)の獲得を争うような艦隊同士の戦闘ならBパターンということになります。

また専用ダイスを使用し、出目によって様々な結果を適用する方式も「X出ろ」に分類できるでしょう。
AcademyGamesの〈Birth of America〉シリーズでは、戦闘時に振るダイスには3種の目があります(損害/任意退却/逃亡)。そして陣営ごとにダイス結果の確率が異なり、ダイスの最大数も違います。
つまり、ダイスだけで陣営ごとの特徴を出しており、これがゲームの演出に上手くはまっていると言えます。

たとえばこれを日本の戦国時代のゲームに当てはめるなら、一向宗の一揆勢のダイス目は相手に与える損害は1/3、逃亡は2/3でダイスの最大数は6個、対する織田勢は損害の出目は1/2、任意退却が1/3、逃亡は1/6としてダイス総数は3個、などとすると、量対質がダイスだけで演出可能になります(1回の戦闘で振れるダイスの数はそのエリアにいる自ユニット数に等しい)。

他に専用ダイスを使用したゲームとしてはDays of Wonderの『Memoir '44』もあります。このゲームの場合は攻撃を行うユニットの兵科と目標までの距離によって振れるダイスの数が決まり、目標の兵科と一致した出目がヒット数になります(その後、旗の目の数だけ退却)。
また専用ダイスではなく、専用の「バトルボックス」を用いた面白い作品もあります。AVALON HILLの『AXIS&ALLIES GUADALCANAL』では戦闘解決時にダイスの入った箱を振り、下部を引き出して戦闘結果を判定します。

『AXIS&ALLIES GUADALCANAL』のバトルボックス。合計戦闘力が5で艦隊を攻撃した場合(ダイス5個)、駆逐艦、戦艦、空母にそれぞれ1ヒットとなる。同様にこの条件で地上戦であれば歩兵2、大砲1が除去となる。

箱に入っているダイスの数は12個で固定ですが、参照するのは攻撃側の合計戦力数までです。引き出しには目標となる機種/艦種/兵科が書かれていて、1か2の目がヒットです。

この方式の優れた点は、多種にわたる目標に対する戦闘結果を1つの方法で解決しているところです。同様の結果は戦闘結果表を使用しても求められますが、3種類の表が必要になります。
惜しむらくは、通常のウォーゲームに用いるにはコストがかかる点です。ただ、筆者としてはこのシステムには素直に驚かされたし、もっと普及しても良い方法だと思います。

以上、これらの作品は純然たるウォーゲームというよりは、ボードゲームに近い存在と言えます。また「X出ろ」がウォーゲームで使われる場合も、どちらかというとゲーム寄りの作品が多いように思います。
その意味で「X出ろ」方式はウォーゲームとボードゲームを繋ぐような作品と相性が良いと言えるでしょう。

IV. 戦力差/戦力比較

一般に、戦力差による戦闘解決方法とは、攻防双方の合計戦闘力(および修正値)を比較し、その差分を戦闘結果表(CRT)で判定する方式のことを指します。
戦闘結果表を用いる点は戦力比による解決方法と似ていますが、計算方法としてはこちらの方が簡単という利点があります。また、双方の戦力を比較するという点でも戦力比と戦力差は近い存在といえます。
しかし戦力比の場合は端数処理を行うため、「1.9:1」の場合でも、「1.1:1」でも1:1となり、1戦力の重さ(軽さ)が問題となります。その点、戦力差の場合は端数が発生せず、攻防ともに1戦力の重さは等しくなります。

一方で、戦力差を用いる場合はユニットのレーティングにおいて、かなり細かい調整が必要になります。また、デザイナー自身がどのような展開を望むのかを明確にし、それに沿ったデザインが求められます。これはユニット・レーティングのみならず、戦闘に影響を及ぼす地形効果や、地形レイアウトまでも含みます。

また戦力差に近い解決方法として、戦力比較という方法もあります。この場合のもっとも単純な方法は、合計戦力値を比較して、大きいほうが勝つというパターンです。攻撃力から防御力を引いた差分が防御側の被る損害数とするパターンもあります。
さらにこれら2パターンとも、不確定要素を加算(減算)する場合とそうでない場合があります。

戦力比較が用いられるケースとしては、シンプルな戦闘解決が必要とされるゲームが多く、どちらかというとボードゲーム寄りの作品に用いられます。また、ボードゲームの個人戦闘の処理や、マジョリティの処理などにも使われています(防御側の駒を0まで減らし、同数分だけ攻撃側の駒も除去するなど)。
もう一つ、戦力差の変わり種として、エポックEWEの『決戦関ヶ原』というゲームの戦闘処理があります。ルール上は「戦力比」と書かれていますが、事実上の戦力差システムといえるでしょう。

『決戦関ヶ原』の戦闘解決。西軍(島および大谷)から東軍(徳川)への攻撃。西軍戦闘力9に対して東軍は4(このままなら東軍壊滅)。これに電子判定による5を東軍に加算して最終的に同数となり、引き分けとなった。戦闘結果は彼我の戦力差によって固定だが、乱数を戦力に加算することで結果が大きく変わる点が面白い。

このゲームでは乱数で1、3、5の値が攻防どちらかに加算されます。それを加味した上で攻防の戦力を比較し、同数、より大きい(小さい)、2倍以上(以下)によって無効、退却、壊滅という結果になります。
これはなかなか面白い処理で、もっと使われても良いシステムではないかと思います。

V. 火力差

火力差による解決方法は『Storm Over Arnhem』で採用された方法がその代表といえます。
一般的な例としては、リード・ユニットの攻撃力(防御力)+戦闘に参加する活性化状態の味方ユニット数+ダイス+その他修正値を比較し、攻撃側の値が防御側の値を上回っていれば損害を与え、そうでなければ攻撃失敗(双方損害なし)というシステムです。

『Storm Over Arnhem』がそうであるように、マップにエリアを用いたゲームで採用されることが多く、このシステムをベースに様々な亜流も生み出されています(カード併用など)。

この方法の利点の一つは、攻撃側・防御側双方がダイスを振ることにあります。ウォーゲームは極端なシチュエーション、たとえば防御側の戦力が少なく圧倒的に不利な状況を題材としたゲームは無数にあります。そういう場合、戦力比や戦力差の方法では防御側はダイスを振る機会さえないというケースも少なくありません。

その点、たとえ防御側から戦闘を仕掛けなくても、戦闘のたびに双方がダイスを振る火力差方式は、防御側プレイヤーのプレイ継続意欲にプラスとなります。
そういう意味では、他の戦闘解決方式でも防御側のモチベーション維持という点で大いに参考にすべきかもしれません。

VI. 競り

「競り」という名称はウォーゲームではあまり馴染みがないかもしれませんが、適切な用語が思い浮かばなかったので暫定的にこう呼称します。
この方式は、双方が出す戦力をエスカレーションさせていき、どちらかが戦力を出せなくなったとき、または出すのを止めた時点で結果を適用する方法です。
もっともわかりやすい例はAVALON HILLの『Hannibal』でしょうか。近年だとGMTの『Sekigahara』などもこれに該当します。

一般的な方法だと、戦闘が発生した時点で双方は自軍の戦力数に等しい枚数の戦闘カードを獲得します。そして攻撃側からカードを出し、防御側が対応するカードを出し……を繰り返します。
『Hannibal』の場合は対応する「戦術」がなければ、『Sekigahara』の場合は累積する「打撃数」を上回ることができなくなれば敗北します。

この方法の場合、戦闘回数が増えること=損害の大きさに比例し、戦闘が直感的でわかりやすいのが良い点です。
また火力差の場合と同様、両陣営が戦闘に参加することで「自ら勝ちをもぎ取った」感覚が強く、プレイに興奮をもたらすという点も重要です。
一方で、1回の戦闘解決に時間がかかるのはデメリットといえます。とくに多人数ゲームでこの方式を採用する場合はとくに注意が必要です(自戒の念を込めて)。
例として挙げた作品もそうですが、この解決方法は戦闘が行われる以前の機動や作戦の優劣が重要で、中世以前、とくに古代戦などと相性が良いと思います。

以上、さまざまな戦闘解決方法についてざっと解説しました。
次回はこれを踏まえて、これら戦闘解決方法の応用と、未来のゲームについて考えてみたいと思います(やや大袈裟ですが)。

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2020年10月20日発行 第155号

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