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ウォーゲーム・メカニクス第4回ウォーゲームの戦闘解決方法(3)戦力比のバナー

◆構成要素

前回までにウォーゲームにおける戦闘解決方法の概略を述べましたが、今回からは各解決方法についてさらに深掘りしていきたいと思います。

まず最初に取り上げるのは「戦力比」による戦闘解決方法です。戦力比を用いたごく一般的な戦闘解決方法は、攻撃側および防御側の戦闘力を、数値の小さい方を1とした整数比(戦力比)に直します。たとえば、攻撃側5戦力に対して防御側2戦力なら2:1、攻撃側2戦力に対して防御側5戦力なら1:3という具合です。

そしてその戦力比を戦闘結果表(CRT)上の該当列に当てはめ、サイコロを振った結果と交差した欄に戦闘結果を求めます。その際、地形や部隊練度、士気、各種支援部隊などによりダイス修正(drm)とコラムシフト(1)が付加される場合があります。ウォーゲーマーの皆さんにはお馴染みの方法です。

戦力比による戦闘結果表の基本構造はこのようにシンプルなものですが、これまで発表されてきたウォーゲームはこのシンプルな構造に様々な工夫を凝らすことによって、その作品にマッチするようにカスタマイズしてきたといえます。

◆流血型と流動型

戦力比によって導き出される「戦闘結果」は、概ね「損害」と「退却」で表されます。損害は一般的にステップ・ロス(2)、退却は退却数として提示されます(単に「DR」という表記の場合でも、退却数は別途指定されています)。

また、損害と退却ヘクス数を合計数値として提示し、適用者に適用の比率を委ねている場合もあります(損害数が「3」の場合、ステップ・ロスを1〜3とし、退却ヘクス数はその残数に等しい、など)。さらにこのような場合は、最低ステップ・ロス数を強制したうえで、残りの数値の裁量を委ねているケースもあります。

いずれにしても戦闘結果はユニットが被る実損害と、退却すべき(ヘクス)数から構成されているといっていいでしょう。ここで1つ注目したいのは、その戦闘結果の構成比率です。つまりステップ・ロスの結果が出やすいのか、退却の結果が重視されているのかということです。この構成比率の違いにより、いわゆる流血型と流動型とも呼ばれています。そしてこのことは、戦闘の基本的なルールにも直結し、またモチーフにすら関わってくることになります。

すなわち、メイ・アタック(3)とマスト・アタック(4)という戦闘ルールです。これらについては項を改めて解説したいと思いますが、この2つの戦闘ルールと、戦闘結果の構成比率の組み合わせにより、そのゲームの性格の大凡は規定されるといっても過言ではないでしょう。たとえばマスト・アタックのゲームで流動型の戦闘結果を採用した場合、盤面上では「如何に効率よく相手のユニットを包囲するか」が重要になります。これに強ZOC(一旦接敵すると退却か除去以外では離脱不可)が合わさると、一度戦端が開かれると戦線は固着し、壮大な殴り合いが展開されることになるでしょう。

一方、メイ・アタックで流血型の戦闘結果を採用した場合、地勢とユニットの移動力、ユニット密度にもよりますが、機動戦(運動戦)が展開されることになります。つまり同じ戦力比システムでも、結果の構成を変えるだけでゲームの性格、そしてプレイの展開は大きく変わることになります。したがって、ゲームをデザインする際には、デザイナーはどのようなゲーム展開になるかを想定し、それに合ったシステムを採用する必要があります。もちろん、史実をベースとしたウォーゲームであれば、史実とかけ離れた展開にならないように考慮することも必要でしょう。

◆発明またはエポックメイキング

「戦力比を用いた戦闘結果」というメカニズムにおいて、これまでにいくつもの発明や、エポックメイキングとなったアイデアがあります。そのすべてを網羅することはできませんが、重要だと思われる数点について考察してみたいと思います。まず最初に取り上げたいのは「3:2」という戦力比率の導入です。残念ながらこの戦力比を取り上げた最初のゲームタイトルを筆者は知りません(しかし少なくとも1975年にStrategy&Tactics誌の付録として出版された『Frederick the Great』では実質的に採用されています:後述)。

ただ、この戦力比率を採用した意図はおぼろげながらに理解できます。ユニットの戦闘力値が低く、スタックもさほどない場合はよいのですが、攻防の戦闘力合計が2桁、それも30台以上になってくると、1戦闘力の価値が減少します。

※画像をクリックすれば拡大画像になります。

◆Frederick the GreatのCRT戦闘結果の数値はスタックが失う戦力比率を示し、Lは指揮官の除去を示す。この戦闘結果表はなかなか興味深く、少数精鋭で大敵を打ち破ったフリードリヒ大王の戦いを反映するものとなっている。

それも5:1や6:1などの高比率になればあまり気になりませんが(そもそも防御側の戦闘力との差が大きいため)、1:1と2:1の間ではその比重が相対的に大きくなるわけです。この時、1:1から3:1までの戦闘結果に大きな差がなければ影響も少ないですが、そうでない場合もあります。そういう場合に3:2という戦力比率は大きな意味を持ちます。そしてこの3:2、すなわち1.5:1という比率が採用されたことは、極論をすれば戦力比をさらに細分化する可能性の余地を生み出したともいえます。

現実にはプレイアビリティの問題から採用することは難しいでしょうが、理論的には1.2:1や3.3:1という戦力比を表に取り入れてもいいわけです。そしてそれを感じさせてくれる戦闘結果表が、先述したSPI/AH/HJの『Frederick the Great』で採用されていました。このゲームでは戦力比を整数比にせず、攻撃側戦力を防御側戦力で割ったそのままの値を%とし、それを参照します。たとえば攻撃側が12、防御側が7であれば、12÷7=1.71で171%となります。そして戦闘結果表上では「150%〜199%」の列を参照します。これは実質的には3:2と同義です。またこのゲームの戦闘結果表の面白いところは、「66%〜99%」の列があることで、これは実質的には「2:3」ということになります。

つまり敢えて整数比に直さず、%で表記することで、戦力比の列を細分化することが可能であることを示しています。とはいえ、この方式はその後あまり浸透することはありませんでした(使用しているケースももちろんあります)。恐らく、整数比に直すほうが直感的でわかりやすいという理由でしょう。ただ、可能性の片鱗は残されていると筆者は考えています。

また、GMT社の初期のゲームでよく用いられたのが、戦闘結果に10面体ダイスを使用する戦闘結果表です。これは戦力比に限ったものではありませんが、それまで主に6面体ダイスによって結果を求めていたものを、10進数という直感的でわかりやすい戦闘結果表を導入した功績は大きいと言えるのではないでしょうか。10面体ダイスの使用そのものは、もちろんそれよりずっと以前から採用されてきたわけですが(たとえば国産ゲームでもEPの『装甲擲弾兵』で採用されています)、採用を大きく前進させたのはGMT社だったように思います。もう1つ、個人的にエポックメイキングだったと思う発明に「マグニチュード」というメカニズムがあります。

初出は筆者の知る限り1992年に出版された『Campaign to Stalingrad』で、以後、デザイナーのマーク・シモニッチ氏が好んで採用しています。このメカニズムは、デザインのベースとなった「戦闘規模」に対して、より大規模な戦闘が起こった場合に損害を増加させるというアイデアです。前述の『Campaign to Stalingrad』であれば、1つの戦闘において両軍がそれぞれ2個師団以上を投入した場合、戦闘結果で振るダイスの数が2個になり、その結果を合わせて適用するというものです。これはなかなか理に適った措置で、同じ戦力比でも戦力の投入量が異なれば損害の度合いも変わるという当たり前のことを示しています。また、これと合わせて、戦闘時には色が異なるダイスをもう1つ振り、攻撃側の前進数と退却側の退却数も判定します(損害判定とは異なる欄を参照することになります)。

このシモニッチ氏が考案した(と思われる)方式は優れたものだと思うのですが、他のゲームで採用されているのをあまり見かけません。もしかすると、整合性を取るにはかなりシビアな調整が必要なのかもしれません。その他、言われてみればなるほど、という工夫もさまざまなゲームにおいて採用されています。たとえばジョセフ・ミランダ氏が好んで用いる戦闘結果表に「強襲」と「機動」という2種があります。「機動」戦闘結果表は条件によって選択できない場合があり、この2種の戦闘結果表は当然戦闘結果が異なります。これも近現代の戦闘をモチーフにしたゲームには適したものと言えるかもしれません(採用したゲームの評価はともかくとして)。

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◆Campaign to Stalingrad:Southern Russia 1942のCRT例えば3:1/マグニチュード2の場合、戦闘結果のダイスが4と5だとする。この場合、A1/D1とD1を合わせ、最終的に攻撃側は1ステップ・ロス、防御側は2ステップ・ロスとなる。またこれとは別にもう1つダイスを振り、戦闘後前進と退却数を決定する。

また、本誌発行人の中黒靖氏が自身のブログ(5)で言及しているように、ダイス修正(drm)を上手く使うことで、プレイを誘導し、合わせてプレイヤーに決断を促すことが可能となります。詳細はブログを参照していただくとして、6面体ダイスを使用した戦闘結果表の場合、0以下および7以上の行はdrmがない限り発生しません。逆に言えば、drmがある時のみ発生する可能性のある結果をそこに盛り込むことができるわけです。そこにプレイ上のジレンマが生じ、プレイヤーは決断を促されることになります。これはコラムシフトについても同様のことがいえ、戦力比、コラムシフト、ダイス(数)および修正値を適宜組み合わせることで、デザイナーは自らが意図するゲーム展開になるように戦闘結果表を構築すべきでしょう。

◆さらなる工夫

これまで戦力比を用いた戦闘結果表は数多く使用され、またさまざまな工夫が凝らされてきました。しかし、これですべて出尽くしたわけではありません。むしろ、これからもゲームに合わせてさまざまな進化を遂げていくものと思います。そこで最後に2つ、戦力比による戦闘結果表に対するアイデアを提示しておきたいと思います(ただし、すでにどこかで採用されている可能性も否定できません。もしご存じでしたらご教示いただけると助かります)。

まず1つは、攻撃側の戦力比と防御側の戦力比を別々に求めるというものです。たとえば攻撃側が15戦力、防御側が4戦力の場合、攻撃側の戦力比は3:1となります。これに対して防御側の戦力比は1:4となります(この場合、通常なら「防御側有利に端数処理」するところを、攻撃(反撃)を受ける側有利に端数処理します)。

そして戦闘解決時には攻撃側と防御側、それぞれがダイスを振り、相手に与える損害を参照します。この際、戦闘結果表は相手に与える損害のみが記載されているものとします。お互いが戦力比を計算してダイスを振るため、一手間余計とはなりますが、シチュエーション的に防御側がダイスを振る機会がないようなゲームの場合に採用すると良いかもしれません。

もう1つは相互損害(EX)(6)を細分化するというものです。たとえばほとんどの(あるいはすべて)の戦力比で1/6の確率でEXが発生するとします。この時、EXの結果に限り、改めて別に用意したEX表を参照し、再度ダイスを振って結果を求めます。

相互損害についてはこれまでもさまざまな結果が考案されてきましたが(防御側全滅・攻撃側は1/2除去など)、ゲームによっては影響が大きいと感じることがあります。そこで結果をさらに細分化することで、影響を和らげる(あるいはより過激にする)ことができるのではないかと思います。

以上、今回は戦力比による戦闘解決について考察してきましたが、次回はその他の戦闘解決についてさらに考えてみたいと思います。

  • 【注釈】

  • (1)コラムシフト:戦力比の戦闘結果表の場合、本来の戦力比列を左右に動かす修正のこと。たとえば「森を攻撃する場合は左に1シフト」など。この場合なら3:1の戦力比は修正後に2:1となる。
  • (2)ステップ・ロス:ウォーゲームでは1駒(ユニット)が1部隊を表すことが多い。その部隊が損害を被った場合、いきなり全滅するのではなく、部隊としての継戦能力を段階的に失い、最終的に盤上から消滅する。これを表すために駒(ユニット)は複数のステップ(段階)を持つ場合がある。もっともシンプルでもっとも多用されているのは、表面と裏面で戦力段階を変化させる方法である。この場合、損害を受けていない表面の駒(ユニット)が損害を受けると、裏面となって戦力が減少したことを表す。これをステップ・ロスという。
  • (3)メイ・アタック:戦闘において、隣接したユニットに対する攻撃を強制されない戦闘ルールを指す。攻撃側は自ら望むユニットだけを用いて攻撃することができる。
  • (4)マスト・アタック:戦闘において、隣接したユニットをすべて攻撃しなければならないとする戦闘ルール。状況によっては不利だとわかっていても攻撃しなければならないケースも発生する。
  • (5)BONSAI GAMES ONLINE《シフトかダイス目修整か》 《続・ダイス目修整》
  • (6)相互損害(EX):いわゆる作戦級のウォーゲームでよく採用されている戦闘結果。もっともオーソドックスな相互損害の適用方法は、防御側のユニットが全滅し、攻撃側はそれと同戦力以上のユニットを除去するというもの。たとえば防御側の戦力が3だった場合、攻撃側は合計で3戦力以上のユニットを除去しなければならない。
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2020年12月20日発行 第156号

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