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ウォーゲーム・メカニクス第4回ウォーゲームの戦闘解決方法(4)戦力比のバナー

◆なぜファイアパワーなのか

ファイアパワーによる戦闘解決方法をごく簡単にまとめると「攻撃側ユニット(スタック)の火力(戦闘力)合計値を使用し、乱数によってその結果を導き出す」方法ということになります。

ここでポイントとなるのは「相手側のパラメーターは参照しないケースがある」ことと、「必ずしもCRT(戦闘結果表)を必要としない」という2点です。絶対条件ではありませんが、この2点は戦力比による戦闘解決と異なる点です。

一般的にファイアパワー方式は戦術級ゲームで採用されることが多いですが、エポック/サンセットゲームズの『D-DAY(以下、史上最大の作戦)』のように作戦級で採用されている例も少なくありません。

その『史上最大の作戦』のデザイナーズ・ノートで鈴木銀一郎氏は「戦力比は物量の戦いをシミュレートするのに不向き」と述べられています。これは前回も述べたように、戦力比は単純な整数比に直すことから、状況次第で1戦闘力の価値が異なる、ということと同義だと考えます。

デザイン手法が進化した現在なら、「39:20」の結果を、限りなく「2:1」の結果に近づけるような方法も考えられるかもしれません。しかし、それは恐らくプレイヤーに対する負荷を大きくさせることに繋がるでしょう。それならばいっそ、攻撃側は30-39火力の欄で、防御側は20-29火力の欄でそれぞれダイスを1回ずつ振って結果を求めたほうが楽ですし、理に適っているといえます。

では戦力比方式などやめてしまえばいいかというと、それもまた暴力的な話で、なぜ戦力比方式が未だに採用されているのかということは前回述べたとおりです。これまでの繰り返しになりますが、そのゲームが題材としている戦闘、作戦、戦争を再現するにあたり、何がもっとも適切で、何がもっとも向いているのかということを突き詰めて考えることが重要なのだと思います。

間違っても「戦術級だからファイアパワー」とか「作戦級だから戦力比」という思考停止には陥りたくありません。少なくとも製作する側の姿勢としては「なぜそうしたのか」を問われた時に、明確で納得のいく理由がなければなりません。そしてそれこそが「デザインする」ということなのではないでしょうか。

◆ファイアパワーの種類

一口にファイアパワーといっても、いくつかの種類があります。まず、もっとも一般的なタイプはCRTを用いたものでしょう。横軸が火力欄、縦軸がダイスとなっていて、その交差する欄に目標が被る結果が記されています。

『スコード・リーダー』に代表される戦術級ゲームの場合、ファイアパワーによる射撃戦は「制圧射撃」の意味合いが強く、戦闘結果もユニットの除去やステップ・ロスよりも「一時的な行動不能状態」とするものが多く採用されています。この方式の優れている点は、寡兵と大多数の戦いでもストッピング・パワーの優劣で再現できるところでしょう。たとえば正規軍1個中隊規模の部隊と2000人くらいの暴徒が対峙するシチュエーションだとして、正規軍の火力値は高く、支援火器もあるとします。一方の暴徒はまともな火器が限られているとします。

この場合、正規軍は射撃によっていくらかの暴徒を制圧可能ですが、白兵戦に巻き込まれると、もとのユニット数が少ないのでいずれ消滅してしまう、という状況を再現できます。つまり、白兵戦に至るまでの結果が重要であり、異なる戦闘解決方法を用いることで両者の違いを際立たせることが可能となるわけです。ところが、これを戦力比だけで解決する場合、結果によってはダイスの一振りでゲーム終了となるかもしれません。その意味では、ファイアパワーを採用する場合は「時間を細切れにする」あるいは「段階を追う」シチュエーションに向いていると言えるでしょう。

このような歩兵戦闘を主眼としたファイアパワーとは別に、戦車戦や砲撃戦に用いられるファイアパワーもあります。この場合、必要となるパラメーターは距離、射撃側の火力、防御側の装甲などになります。先の例では攻撃側の火力のみを参照したわけですが、このケースでは両者の物理的な優劣を判定することになります。すなわち物理法則の世界です。戦車戦を例に取ると、まず砲撃が命中したか否かを判定する必要があります。どれほど威力が大きくても、そもそも当たらなければ損害を与えることはできません。この場合は、一般的に距離に応じて命中の確率が変化します(距離によって命中率が変化しないような攻撃であれば、もちろんこの処理は必要ありません)。つまり、遠距離からの砲撃は外れやすく、近距離ほど命中しやすいわけです。歩兵戦闘などの場合でも、距離による修正を加味する場合もありますが、大抵の場合は遠距離・中距離(修正なし)・近距離で、それぞれに若干の修正が施される程度です(たとえばダイス修正+1など)。

しかし戦車戦の場合であればもう少し細かい修正や判定がなされることが多いといえます。たとえば拙作『ぱんつぁー・ふぉー!』であれば、基本的な命中判定は6面ダイスを2個振り、目標までのヘクス数以上が出れば命中となります。したがって隣接ヘクスからの射撃は必ず命中し、13ヘクス以上離れていれば命中しません。この命中判定を経た上で、撃破判定を行います。一般的には攻撃側の火力+修正値、防御側の装甲値+修正値を比較し、効果があったか判定されることが多いでしょう。

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とはいえ例外はいくらでもあります。たとえば国際通信社の『TANKS+』では、戦車ユニットに固定の火力値は存在せず、距離に応じて異なる貫通力が設定されています。そしてこの貫通力は命中判定と連動しています。すなわち、戦車ごとに射撃距離に応じた命中判定値があり、ダイスを2個振って判定値以下が出れば命中。さらに同じ欄にはその時の貫通力が記されています。そして命中したら目標の装甲値から貫通力を引き、その値で撃破判定表を用いて撃破判定を行います。

このシステムの優れている点は、射撃距離によって貫通力が漸減することをシンプルに再現していること、撃破判定表は共通ということです。反面、登場する全車両ごとに貫通表を作成する必要があることと、それに対応した装甲値を設定する必要があるということです。これらの整合性を取ることは思っている以上に大変な作業となります。このように戦車戦の判定でも表を使う場合もあれば使わない場合もあり、どちらが優れているというものではありません。また、Academy Games社の『Conflict of Heroes』シリーズでは歩兵の射撃戦闘も戦車の砲撃もすべて同一の戦闘処理を行うというかなり革新的なものでした。

ユニットにはそれぞれ対歩兵火力(HE)と対装甲火力(AP)が記載されていますが、防御力については前面/側面の2種しかありません。そして目標の種類(HEかAPか)に応じた火力値とダイス2個を合計した値と、目標の防御値(+地形修正など)を比較し、攻撃値が上回っていればヒットとなります。そしてヒットした場合はヒットマーカーを引き、目標ユニットの下に置いて以後その効果を適用します。

ヒットマーカーは歩兵用と戦車用で別になっていますが、一発除去の確率はさほど高くありません。しかしヒットマーカーがある状態でもう1度ヒットを食らうと除去されてしまいます。このシステムの素晴らしいところは、面倒な計算は1回で済ませていることに加え、表を参照する煩わしさをもなくしているところです。それどころか「マーカーを引く」という、いわばくじ引きのドキドキ感を演出しているのです。また、マーカーにさまざまな効果を付すことで損害にバリエーションを持たせている点も素晴らしいといえます(たとえば移動できなくなったり、射撃に不利な修正が付いたりします)。

人によってはこういう演出は「玩具」っぽく感じられるかもしれません。しかし突き詰めて考えれば表を参照することも、マーカーを引くことも、そう大きな違いがあるわけではありません。結局のところ、戦闘処理にまつわる確率というのは、そのゲームのデザイナーの主観に拠るところが大きいわけです。『スコード・リーダー』における20火力の射撃によるユニット除去(KIA)の確率は25%です。修正をべつにすれば、これはどれだけ射撃しても変化しません。

これに対して『Conflict of Heroes』の歩兵戦闘は、はじめての戦闘解決時におけるKIAの確率は5%に過ぎません。ところが先述のようにヒットすることでマーカーがプールからどんどん減っていきます。したがって戦闘が激化していくにつれてKIAの確率も上昇していくことになります。つまり『スコード・リーダー』は同火力であれば基本的に確率は変化せず、『Conflict of Heroes』の場合は火力に関係なく状況の変化によってKIAの確率が変動するわけです。これがまさにデザイナーの主観であり、思想といえます。

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◆史上最大の作戦の CRT(画像はエポック版)戦闘力とダイス値の交差した欄が打撃力を表す。本作では損害の適用方法も細かく規定されているため、数合わせのために弱いユニットから除去するような「技」は使えなくなっている。

◆ファイアパワーの応用

また、先に「戦術級ゲームの場合は制圧射撃の意味合いが強い」と書きましたが、これが作戦級になるとやや異なってきます。戦闘結果はステップ・ロスや退却が主となり、ゲームによってその比重が変わってきます。

たとえば『史上最大の作戦』の場合、戦闘の結果は「打撃」として表されます。そして目標スタック内のユニットのうち、もっとも高い防御レベルを持つユニットと打撃値を比較し、同値ならそのユニットが1ステップ・ロスします。打撃値のほうが上回っている場合は適用後の残値をさらに比較し……という形で適用していきます。

また、防御側のみはこの打撃値を退却によって消化することも可能です。ただし退却したヘクス数に応じてレベルが低下し、回復しない限り攻撃も反撃もできなくなります(つまり複数段階のある混乱状態となるわけです)。そしてこのゲームの場合は攻撃側が攻撃を行う時、同時に防御側も反撃を行うルールになっています。

ノルマンディ戦というのは、よく知られているように上陸した連合軍がなかなか突破をできなかった戦いです。しかし、物量の差によっていつか、どこかで大突破が起きる。対するドイツ軍はなんとかそれを防ごうとします。この戦闘システムはその状況をよく反映しているといえるでしょう。また加えていうなら、歩兵も戦車も一律に8移動力を与えられ(ただし道路移動率は異なる)、戦線に穴が開けば奔流のように流れ出していくことも膠着からの突破を再現することに一役買っています。

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◆COMBAT COMMANDERカード右下に記載されたダイスが判定値 として使用される。また、その判定値に は赤枠が付されている場合があり、判定 の前に割り込み処理を行う必要がある。 このケースだと射撃の解決をする前にス ナイパーの判定が必要で、場合によって は射撃の結果が変わる可能性がある。

また、ダイスを使用しないユニークな判定方法としてGMT社の『COMBAT COMMANDER』も挙げておきたいと思います(1)

カード・ドリブン・システムの本作の場合、そもそも射撃を行うためには「射撃」カードがなければなりません。そして運良く射撃カードが手札にあった場合は、射撃を行うユニットの火力値と判定値を合計した「攻撃力」と、目標ユニットの士気値と判定値を合計した「防御力」を比較します。この時、攻撃力が防御力を上回れば目標は混乱し、同値の場合、移動中(すなわち臨機射撃)なら混乱、そうでないなら抑圧状態となります。

ここで面白いのは、双方の判定値なのですが、これはカードに記載されている「2〜12」までの値です。そう、ダイス2個振りと同じ結果であり、確率分布も同じです(各陣営72枚構成)。それならダイスを使えばいいではないかという疑問が生じますが、2つの点でそうではない、と言えます。

まず1点は確率分布は同じでも、確率は同じではないということです。たとえばダイスによる判定であれば3回連続して「2」が出る可能性はあります。しかしカードによる判定では72枚のカード中に「2」のカードは2枚しか入っていないため3回連続する可能性はまずありません。さらに言えば、「2」を出さないために敢えて手札に残しておくことすら可能です。

言うなれば閉じられた確率とでもいう処理がなされています。くわえて、この判定値にはもう1つ要素が加えられています。それは「トリガー」と呼ばれるもので、判定のために引かれたカードにこのトリガーが記載されていた場合、割り込みでその処理を優先する必要があります。トリガーにはスナイパーやイベントなどのほか、「タイム」というものがあります。このタイムが発生するとターンが更新されます。つまりゲームの終了フラグともなりうるもので、これによりゲームの長さおよび終了が不確定になっています。

このように、カードによって戦闘処理を行い、かつ他の効果も有機的にリンクさせることで『COMBAT COMMANDER』はカード・ドリブン・システムを用いた戦術級歩兵ゲームとして成功したと言っても過言ではないでしょう。このようにファイアパワーといってもその種類は多岐にわたり、またアイデア次第でこれからも多種多様な処理方法が生み出されていくことでしょう。

  • 【注釈】

  • (1):ここではファイアパワーの例として採り上げていますが、本来なら「火力差」に分類すべきでした。詳しくは次回に述べます。
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2021年2月20日発行 第157号

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