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ウォーゲーム・メカニクス第6回ウォーゲームの戦闘解決方法(5)のバナー

まずはお詫びから。
 前回、ファイアパワーの戦闘解決方法の例として『COMBAT COMMANDER』を取り上げましたが、連載第2回での分類に従えばこれは「火力差」とするほうが適切だろうと思います。ユニットに記載された火力による射撃という点ではまさにファイアパワーなのですが、リードユニット以外のユニットは火力値ではなくユニット数を加算する点、攻撃側と防御側の火力差によって防御側にのみ戦闘結果が適用される点などを考えると、自らが定義した「火力差」ということになります。

一般的に言って、「火力差」のメカニズムは『アルンヘム強襲』に代表されるエリア・インパルス・システムのゲームで採用されることが多く、対して『COMBAT COMMANDER』は『スコード・リーダー』に代表されるいわゆる戦術級ゲームに該当します。このため自分の中のこうした思い込みから、メカニズム面ではなく、ジャンルの分類を無意識に優先した結果、混乱してしまったものと思われます。

とはいえ、ファイアパワーと火力差というメカニズムは、両者とも射撃戦を模したものではあり、そう考えると「火力差」というメカニズム自体、ファイアパワーの亜種という見方もできそうです。また、このことに限らず、それぞれのメカニズムは他の要素を取り入れて変化、あるいは進化し続けているともいえます。

そこで今回は残りの戦闘解決メカニズムを取り上げるとともに、これらの亜種や今後の可能性、そしてこれまでの分類に収まらなかったメカニズムなどについて考察してみたいと思います。

◆6 出ろとはなにか?

「シミュレーション」ゲームと「ウォー」ゲームの定義については、いずれ改めて考えなければならない問題だと考えています。それはそれとして、世の中にはウォーゲームの「シミュレーション性」について一過言ある方がいるかもしれません(もちろん、いないかもしれませんが)。

そういう人の中には、いわゆる「6出ろ(X出ろ)」というメカニズムを嫌悪したり、「いったいこれはなにをシミュレートしているのか」と疑問視する向きもあるかと思われます。しかし、戦闘結果表を用いた戦闘解決と、ダイスを振るだけで結果を求める「6出ろ」にそう大きな差があるとは思えません。つまるところ、これは確率の問題であり、またそのゲームにおいて何を再現し、プレイヤーに何を経験して貰いたいかという問題に行き着きます。

極端な話、「6出ろ」を戦闘結果表で表すことは至極簡単なことです。むしろ簡単でありすぎるからこそ、敢えて表にしていないとも言えます。艦船による砲撃戦であれば「6出ろ」の戦闘解決方法はイメージしやすいということがわかります。そもそも艦砲射撃による命中自体、確率論と密接な関係があり、それを極限まで抽象的なものに落とし込んだと考えれば納得がいくからです。一方で、陸上戦の作戦級で「6出ろ」を用いることに違和感を感じるとしたら、地上戦はそれほど単純ではないと感じるプレイヤーがいるからでしょう。

つまりは妥当性の問題であり、メカニズムとして「6出ろ」を採用していても、それに違和感を感じさせないような要素や演出、意味づけといったものを提示できれば問題ないということだろうと思います。それはデザイナーズ・ノートで示されるかもしれないし、ゲーム内の他の演出と複合的に表されるものかもしれません。一般的に、「6出ろ」のメカニズムが用いられる時は6面体ダイスが使用されます(その名の通りです)。しかし戦闘や、なんらかの解決結果を導き出す時に、15%という「当たり」に妥当性があるなら(たとえば資料によるデータの裏付けがあるとか)、20面体ダイスを使用して3面に「当たり」を付ければいいわけです。

しかし20面体ダイスをコンポーネントとして複数個同梱することはコスト的に大変です。その場合は別の方法もあります。たとえば20枚の判定チットを用意し、そのうちの3枚を「当たり」としても結果は同じです。そしてこの方法は(20面体ダイスであれ、判定チットであれ)、さまざまな応用が可能です。当たりの種類を1種類に限定する必要はないからです。たとえば艦船による砲撃戦を解決する時、致命的命中が5%、通常の命中が15%とするなら、それぞれ1個、3個を当たり目に設定すればいいわけです。

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そう考えると「6出ろ」というメカニズムは、まだまだ多くの可能性を秘めているように思います。そして戦闘結果表のように数段階の手順を踏まずとも、ダイスを振るだけで結果が即時にわかるというのは、現在のボードゲーム愛好者にも受け入れられやすいと思われます。

◆戦力差には問題がある?

第3回で述べたように、戦力差方式を採用することで、戦力比の場合に生じる「1戦力の重さ」はある程度解消されます。しかしその一方で、「1戦力差の重さ」の問題が生じます。たとえば「2戦力対3戦力」でも「30戦力対31戦力」でも、参照する欄は変わりません。それぞれ別のゲームであればまだしも、1つのゲームで上記のような戦闘が発生した場合、その結果が同じだと違和感は否めません。なぜならそこに戦闘規模の大小が反映されていないからです。

これを解消するためには、シモニッチ氏が採用しているようなエスカレーション式の手法を取り入れるのも1つの手でしょう。たとえば上記の例で言えば、両軍の戦闘力合計によって振るダイスの個数を変える、あるいはダイス修正を加えるなどの処理を行うわけです。戦力差がほぼなくとも、両軍とも大軍が戦えばその損害も多くなるというわけです。もっとも、これに限ったことではありませんが、大事なのは題材としている戦いの本質を見極めること、そしてデザイナーが何をどう表現したいのかを自覚しておくことでしょう。

◆火力差は何を表している?

冒頭で火力差方式はファイアパワーの亜種とみなすこともできると述べましたが、両者に共通しているのは「撃ち合い」の概念です。ファイアパワー方式は多くの場合、攻撃側のみが射撃を行い、防御側は損害を受けるのみです。これに対して火力差では攻防双方の火力を比較するわけですから、同時に撃ち合っている状況といえます。つまるところ、「撃ち合い」に対して、どのような時間の「区切り方」をしているか、ということです。一般的なファイアパワー方式では明確な時間の区切りがあり、対して火力差の場合にはリアルタイム、すなわち同時進行性の色合いが濃くなっているように思います。

ゲームをデザインする場合は、この違いを意識すると良いのではないでしょうか。また、ウォーゲーム寄りのボードゲームを作る場合にもこのことは参考になるかもしれません。たとえばお互いにカードを出し合って戦闘結果を求めるようなバトルゲームの場合には、リアルタイム性を重視したほうがゲームのスピード感を損なわずに済みます。反対に、ウォーゲームにおいても即時判断が求められるようなゲームがあっても良いのではないかと思います。この点についてはボードゲームやカードゲームから学べることも多いでしょう。

◆競りの可能性

第3回で競りのメカニズムの例として『Hannibal』と『Sekigahara』を取り上げましたが、Histogameの『Friedrich』や『Maria』も戦闘処理にこの競りのメカニズムを採用しています。この2つのゲームで採用されている戦闘のメカニズムはとてもエレガントです。戦力を表すカードにはトランプのスートと数字が記載されており、同様に盤上にもスートが記されています。そして戦闘を行う場合、自軍の位置するスートのカードしか使用できないという制限があります。

これにより、どれだけ多くの戦力を持っていても、同一地域で連続した戦闘を行うことは困難になっています。また、それ故にどのタイミングで今回の戦闘を「手打ち」にするかの決断を迫られます。もしも最後の1枚まで出し切ってしまうと、あとは敵にやられ放題になってしまうからです。この点において、『Friedrich』も『Maria』も、この時代らしさを上手く表現しているといえるでしょう。そして第3回でも書いたように、この競りのメカニズムはどちらかというと前近代的な戦闘解決に向いていると言えます。とはいえ、近代戦にはまったく向かないかというと、そうとも言い切れません。

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たとえば太平洋戦争の島嶼を巡る戦いを想定した場合、単なる数字比べだけの1次元的な処理ではなく、陸海空の3種のカードを用意し、このうち2つに勝利しなければならないとするとそれっぽくなるのではないでしょうか。もちろんこれをベースとしてその戦いらしさを演出するために、さらに複雑にすることはそう難しいことではないでしょう。いずれにしても大事なのは、必要なものを考え続けることだといえます。

◆温故知新

それでは最後に、これまでに触れてこなかった、他にあまり類似したものがないようなメカニズムをいくつか見てみたいと思います。まず最初に取り上げたいのはエポック/国際通信社の『マレー電撃戦』です。このゲームは「士気」に焦点が当てられていて、戦闘処理もそれと密接に関係しています。戦闘システムの概要としては、まず両軍の士気値を比較し、その差を出します。その際、英軍側はモラルチットを引き、そこに記載された値を参照します。そして攻撃側は振るダイスの数を宣言します。このダイス数が目標ユニットの低下するモラル数となります。つまり防御側の被る損害に乱数は介在せず、原則として固定です。

これに対して攻撃側の損害は、振ったダイスの合計値を戦闘結果表に当てはめ、そこに記された数値分だけ士気値が低下します。この時、合計値が参照欄の最大値を振り切った場合(=出目合計が大きかった場合)、振り切った分のダイスは無効となり、その分だけ防御側が被るモラル低下も減少します。士気値=攻撃力と考えると、戦力差方式の変形のようにも見えますが、防御側が被る損害を攻撃側が決定できるというのはかなり革新的に思えます。

それ故か、この方式を採用したゲームを筆者は他に知りませんが、近年出版された『レッドサン・ブルークロス』は、この『マレー電撃戦』のメカニズムに影響を受けたといいます。『レッドサン・ブルークロス』は日露戦争における海洋戦略に焦点をあてたゲームで、戦闘処理はいわゆる砲撃戦というよりは、艦隊戦として解決されます。すなわち先攻側は振るダイスの数を宣言し、その出目の合計値が自艦隊の合計戦力値以下であればそのダイス数が命中数となります(越えた場合はその分だけ命中数も減少)。さらにそのダイス結果にゾロ目があった場合はその分だけ追加の命中数となります。

このように、ダイスの出目を命中数とするのではなく、ダイスの数そのものを命中数とするというのは、1つのエポックメイキングといってもいいかもしれません。また「6出ろ」の変形ながら、面白い戦闘メカニズムを採用しているゲームとしてウォーゲーム日本史の『箱館戦争』もあります。このゲームの場合は最大5個のダイスを振りますが、(同じ出目−1)が命中数となります。たとえば2、2、2、3、5という結果なら、2ダメージということになります。これに加えて、指揮官が戦闘に参加しているとダイスの出目を反対面にひっくり返せるという効果があり、大規模戦闘における指揮官の重要性が表現されています。

また、去年出版されたばかりの『CAESAR ROME vs. GAUL』では、指揮官の能力としてダイスを振り直すというメカニズムが採用されています。このように、既存のメカニズムに新規のメカニズムを付け足すだけでも、戦闘解決方法のイメージは大きく変わることがあります。そして繰り返しになりますが、ゲームデザインにおいて重要なのは、そのゲームにおいてどのようなシステムが必要なのか、あるいは妥当なのかを突き詰めることです。メカニズムはそれを形にするための重要なパーツともいえます。その意味において、ゲームを作ってみようと考える人は、さまざまなゲームのシステムやメカニズムを自分なりに考察・分析してみると、思わぬヒントが得られるかもしれません。

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2021年4月20日発行 第158号

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