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ウォーゲーム・メカニクス第9回 ウォーゲームの移動(3)のバナー

 前回に引き続き、今回もさまざまな移動方法について考察を進めていきます。

●交互移動

将棋やチェスのように、1ユニットないし1スタックを移動させたら、続いて相手が同様に移動し、それを繰り返していくメカニズムです。
多くのウォーゲームでは一方の陣営の移動フェイズにその陣営の全ユニットを移動させ、その間相手陣営のユニットは原則として動かせないという移動メカニズムが採用されています。
それに対して交互移動方式はパスも含め、相手の行動に対してより細やかな対応が可能なメカニズムです。

交互移動方式の場合、大きく2つの方法が考えられます。1つは移動回数制限のないもの、もう1つは移動回数制限のあるものです。簡単にいえばあるユニットが1ターンに何回でも動けるか、動けないかという違いで、多くのゲームは回数制限があります。
移動回数制限がない場合、より流動的な状況を演出できる反面、ゲームそのものが壊れてしまう危険性も孕んでいます。これを防ぐためには相当念入りにテストプレイを重ねなければならないでしょう。
またいずれの場合もゲームにおけるユニット総数が増大するのに比例してプレイ時間も増加し、プレイヤーに対する負荷も大きくなります。

そのため、交互移動が採用されているケースは戦術級か、もしくは比較的ユニット総数が少なめの作戦級が多いようです。またエリア・インパルス・システムやカード・ドリブン・システムとの相性も良く、数手番(=手札枚数)ごとに交代するケースも広義では交互移動に含めて良いでしょう。
ところで、現実の戦闘を考えると、片側の陣営の部隊だけが一方的に移動し、それが終わってから他方が動くというのはあり得ないことではあります。
しかし、もう少し視野を広げて考えると、戦局の推移が概ね再現できているのなら、片側ずつの移動は問題にするほどのことではないともいえます。
つまるところこれは時間の切り取り方の問題であり、リアルさと煩雑さの妥協点ということもできます。
逆説的にいえば交互移動方式はこのような移動方式に対するアンチテーゼとしての側面があると同時に、プレイ上の驚きや焦燥感など、ゲームの面白さのための演出という側面もあります。
究極的な遊び方としては、ゲーム内時間と実時間を完全にリンクさせたうえで、各プレイヤーの持ち時間を制限するということも可能でしょう(チェス・クロックを用いて、制限時間をオーバーしたら残り時間は一方的に相手が移動するなど)。
ボードゲーム寄りの戦術級ゲームとして、このような試みも面白いのではないでしょうか。

●オーバーラン(蹂躙攻撃)

恐らくは、機動戦の再現を重視したゲームの登場と同時期に考案されたメカニズムだと思います。速度と衝撃力という意味では古代〜中世における騎兵突撃に通ずる側面もありますが、ここでは一応別物として扱います。
オーバーランは全移動が終了した後に行われる戦闘解決ではなく、ユニット(スタック)の移動の途中に行われる戦闘です。多くの場合、オーバーランを実施するためには条件が付されており、一定以上の高比率戦闘が要求されたり、実施可能な地形に制約が設けられている場合があります。
また、オーバーラン実施後の移動の継続については、移動力の残りに関係なくオーバーランをすることで移動の終了を強制される場合、オーバーランの結果次第では移動を継続できる場合など、いくつかのパターンバリエーションがあります。

オーバーランを採用した最古のゲームは不明ですが、1970年に出版されたAH社の『Panzer Blitz』にはルール化されています。ちなみにこのゲームでは平地地形に対してのみ実施可能で、目標ヘクスを通り越して次のヘクスで移動を終了することが条件となっています(ゆえに、目標ヘクスの先のヘクスに他のユニットがいる場合は実施不可)。また、効果としては戦闘比率が1シフトとー2DRM(1)となっていて、ペナルティもないためにかなり強力です(ただし戦闘フェイズでの戦闘は不可)。
一般的には、オーバーランが採用されるゲームの場合、強力な装甲部隊が移動フェイズ中に行うことで戦線に穴を開け、後続部隊がその突破口から後方になだれ込んで敵部隊を包囲、というような流れになることが多いでしょう。
あるいは敵の小戦力スタックを踏み潰しつつひたすら前進するような電撃戦タイプのゲームにも用いられます。
いずれにしても前回解説した複次移動と組み合わせることで、ダイナミックな機動戦を再現するのに向いているメカニズムといえます。

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●戦略移動(鉄道移動)

戦略移動を定義するなら「戦線後方における長距離移動」ということになるでしょうか。
とはいえ、鉄道移動を含む後方から前線への移送全般として扱うケースや、たんに敵の妨害を考慮しない行軍移動としてのケースなど、ゲームによりさまざまです。
多くのゲームで共通するのは「移動中に敵ユニットに隣接しない(ZOCに入らない)」ということが挙げられます。
しかしこの場合も「味方ユニットが存在すれば敵ZOCへの進入・通過可能」であったり(GMT『Spanish Civil War』)、「移動開始時を除いてZOC進入不可」だったり、ゲームにより異なります。

また移動開始時に特定のヘクス(道路あるいは鉄道)にいなければならないという条件が付される場合もあります。
ゲームをプレイする上ではあまり気にする必要はないかもしれませんが、デザインするにあたっては、その戦略移動が一体何を表しているのか、という点は抑えておくべきだと思います。
また多くのゲームでは戦略移動を行ったユニットに対するペナルティを設けていませんが、これに違和感を覚えることもあります。
そこで1案として考えてみました。

  • ●戦略移動(行軍移動)を行ったユニット(スタック)には、戦略移動マーカーを置く
  • ●戦略移動マーカーは次の自軍ターンの開始時に取り除く
  • ●戦略移動マーカーが載ったユニット(スタック)が攻撃を受ける場合、ダイスを2個振り、攻撃側はどちらか好きなほうの目を選択して適用する

もちろん罰則効果はあくまで1例なので、たんにDRMにしてもいいでしょうし、コラムシフトでもいいと思います。
デザインするゲームのタイムスケールや時代性など、戦略移動あるいは行軍移動のメリットとデメリットを勘案して、効果や罰則を考えると良いのではないでしょうか。

●移動隊形

先に「行軍移動」という単語が登場しましたが、軍隊が移動を行う際には大別して2種あります。すなわち「戦闘移動」と「行軍移動」です。実際にはさらに細分化されますが、ここでは一旦脇に置きます。
前近代までの戦闘で考えると、移動に適した隊形は縦隊で、戦闘時には横隊に展開します。すなわち隊形変換が必要となります。このあたりはGMT社の『Prussia's Glory』をプレイすれば実感できることでしょう。

また近代以降においても、とくに砲兵については隊形変換が意識されており、「移動したターンは砲撃不可」とするゲームも数多くあります。
このようなメカニズムを最初に採用したゲームは不明ですが、筆者が覚えている限りでは1978年に出版されたSPIの『Battles for the Ardennes』では採用されていました(恐らくもっと古いゲームでも採用されていると思います)。

1ターンが1日以上である場合などは考慮する必要はないでしょうが、作戦級、あるいは作戦戦術級などで1ターンが数時間程度のゲームであれば、採用することでリアリティが増すことになります。しかしその一方でルールが増えることにもなるので注意は必要でしょう。
他のルールあるいはメカニズムでも同様ですが、リアリティとプレイアビリティのバランスは永遠の課題の一つです。

●ZOC離脱と浸透移動

ZOC(Zone of Control:支配地域)については稿を改めますが、ご存じない方のために概略だけコラムにまとめました。
移動というメカニズムとZOCは切っても切り離せない関係にあると言えます。もっとも多く用いられるのは「ZOCに進入したらそれ以上の移動を禁止する」というものです。
通常、戦闘部隊は主力部隊の存在地のみならず、そこを中心としてある程度の範囲に影響を及ぼしています。攻撃側であれば斥候部隊を派遣したり、主力部隊が突然攻撃に曝されないように小部隊をその周囲に配置します。

また防御側においても、各部隊はある一定の間隔の守備範囲が与えられ、その連続によって戦線を構築します。
ユニットとそのZOCによって形成される戦線は、これを的確に再現したものといえます。
そしてZOCによるこの「移動の停止」により、付随して新たなメカニズムが誕生しています。すなわち「進入」「離脱」に対する「追加移動力の消費」です。そしてまた、この「追加移動力の消費」に伴い「浸透移動」というメカニズムが可能となりました。

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ZOCに進入するために、あるいはZOCから離脱するために追加の移動コストを要するケースは、そうでない場合に比べてZOCの影響度合いが強いと言えます。また、場合によってはユニット種別によってその影響の度合いを変えることも可能でしょう。

たとえば師団ユニットのZOCに進入する場合には追加コストが必要なのに対し、大隊ユニットに対しては不要、という具合です。
これらの設定如何でゲームの展開も大きく変わる可能性があり、デザイナーの腕の見せ所といえるかもしれません。

またゲリラユニットや、第一次世界大戦におけるドイツ軍の突撃隊、あるいは太平洋戦争における日本軍のように、敵部隊の間隙を突いて後方へ浸透可能な能力を付与したい時には、それらのユニットのみ進入および離脱の移動コストを小さくすることで演出できます。
ZOCを利用した移動のメカニズムは、今後も発明されていくのではないかと思います。

ZOC(Zone of Control)

ZOCとは、あるユニットが他のユニットに対して影響を及ぼす範囲を表現したルール/メカニズムです。もっとも一般的なものとしては、ユニットの周囲6ヘクスをZOCとし、ZOC内に進入したユニットの移動を停止させるというものです。
また、ZOCは戦闘にも大きく関わっており、ZOC内にあるユニットは戦闘を強制される(=マスト・アタック)というルールがあります。そしてそうではない、つまり戦闘を強制されないルールの場合を「メイ・アタック」と呼び、ウォーゲームにおける戦闘はこの2種に大別できます。
その他にも補給線や連絡線の設定に関与したり、ZOCを利用した包囲や、戦闘結果の退却に際して罰則を与えるなど、その影響は広範囲におよびます。このZOCというメカニズムはウォーゲームにおける偉大な発明の一つといっても過言ではないでしょう。

●指揮官と移動

主に中世以前を題材とした戦略規模のゲームでは、ユニット(スタック)を移動させるには指揮官ユニットを伴わなければならないというルールが採用されているものがあります。
これは軍隊における指揮官の重要性を浮き彫りにすると同時に、指揮官ユニットにキャラクター性を持たせる効果もあります。
これに対し、近代戦以降のゲームではこのような効果が付されることは稀です。つまり近代では将軍個人の能力は矮小化し、部隊(組織)内にその能力は組み込まれているということでしょう。

ナポレオンの時代までは将軍個人の能力に依拠するところが大であったのに対し、これに抗すべく発明された参謀本部というシステムの登場と、戦争の巨大化によって個人の才覚は組織の中で埋没していきました。ゲームにもそれが反映されているわけです。
ただ、そうはいっても近代戦においても戦史上有名な将軍は存在するわけで、ゲームのちょっとしたアクセントとして、限定的に移動ボーナスや戦闘ボーナスが与えられるケースもあります(たとえば「ロンメル・マーカーが載せられたスタックは移動力+1」など)。
ともあれ、指揮官ユニットもしくは司令部ユニットになんらかのプラスの移動能力を与えるというのも1つのメカニズムといえるでしょう。

●補給切れ/混乱

ユニットが本来持っている移動能力に対して罰則が課せられる場合があります。
その代表的なものとして「補給切れ」と「混乱状態」「指揮範囲外」などが挙げられます。
罰則の程度はともかく、本来の移動能力が低下ないし不可ということは共通しています。
これらの罰則については移動のメカニズムというよりも、それに由来する別ルールとの絡みで改めて考えてみたいと思います。

●渋滞問題

これは移動だけでなく、スタックのルール(2)とも関係する話ですが、「スタック制限の常時適用」というメカニズムは、移動において渋滞問題を引き起こすことがあります。
つまり、ユニットの移動順を適切に行わないと、本来移動できるはずだったユニットが移動できなくなってしまうということです。
たとえば「バルジの戦い」のゲームであれば、意図的にそれを演出する手法としてこれを用いる場合もあるでしょう。

しかし物理的に狭いマップで機動戦を再現しようというような時にスタックの常時適用を採用すると、移動の処理がパズルのようになってしまい、プレイヤーのストレスが増すことに繋がります。
したがってスタック制限の常時適用を採用する場合には、それがゲームにおいて何を表現しようとしているのか、明確な答えを用意しておくべきではないかと思います。

  • 【注釈】

  • (1)Dice Roll Modifier:ダイス修正(値)
  • (2)1ヘクスに対して同時に複数個のユニットを配置すること、あるいは配置したユニット群をスタックといいます。また、1ヘクスに何個のユニットを置けるかの規定を「スタック制限」と呼びます。たとえばスタック制限が2ユニットであれば、1ヘクスには2個までしかユニットを配置できません。
    スタック制限が常時適用されるゲームでは、すでに制限いっぱいのヘクスに進入すること自体が禁止されます。
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2021年10月20日発行 第161号

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