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第12回 スタックのバナー

ウォーゲームの特徴的なルール(メカニズム)の一つに「スタック」があります。
スタックのルールを概念的に記述するならば、
特定のスペースに積み重ねることのできる駒の制限を規定したもの
ということになるでしょうか。
ウォーゲーマーには既知のことだと思いますが、このスタックという概念は、部隊密度、あるいは担当地域と関連しています。つまり一定地域にどれだけの部隊(人・物)が存在できるか、あるいは妥当か、ということを表したものと言えます。
したがってこれは「再現性」にこだわるウォーゲーム(シミュレーションゲーム)ならではの概念であり、一般的なボードゲームにはあまり見られません。
というわけで、今回はこのスタックというメカニズムについて考えてみたいと思います。

メリットとデメリット

本稿で考察するスタックとは、前述のようにゲームマップ上の各スペース(ヘクスやエリアなど)において同時に重ね置きすることを指します。
具体的に言うなら、1ヘクスあるいは1エリアにユニットを何個まで同時に置けるかということになります。
このことは、ゲームにおいてどのようなメリットをもたらすでしょうか。あるいは逆に、デメリットは何でしょうか。

まずメリットとして考えられるのは、ゲームデザインのうえでも、プレイにあたっても、その幅が広がるということです。
1ヘクス(エリア)に1ユニットのみというゲームの場合、それはマップ上で均一な「面」しか存在していないといえます。
しかしスタック可能な場合、マップ上に「高さ」が現れます。つまり、特定の範囲に高密度な部隊を集中することが可能になるわけです。
いってみればスタック禁止の場合は2D、スタック可能な場合は3Dであり、重点形成が自然と再現できます。
これは戦闘を再現するうえで非常に重要な概念といえます。
ただしこれは、「スタック不可」のゲームが「スタック可能」なゲームより劣っているとか、つまらないというようなことではありません。
あくまでシミュレーションゲームとして、再現する事象にどちらが適しているかという話に過ぎません。

たとえば、古代における特定の会戦を再現する時には、却ってスタックできるほうが不自然になるかもしれません(もちろんその規模によります)。あるいは海戦ゲームで戦闘を主眼としたものなら、やはり1ヘクス(スクエア)1ユニットというのは妥当でしょう。
こうして考えてみると、スタックの概念がいつ、どのようにして発生したのかおぼろげながら見えてくる気がします。
AHの『タクテクス』にはスタックの概念はありませんが、アバロンヒル・クラシックの中にはすでにスタックのルールを採用している作品があります。
それらは現在でいうところの「作戦級」ゲームであり、一定規模の軍隊同士の戦闘を再現するうえで、「戦力の集中」という戦理を取り入れたということでしょう。
また、後述するように現在ではスタックのルール(メカニズム)もさまざまな形態があり、デザインするうえでも題材に適したものを取捨選択できます。このようにデザインの幅が広がることは、結果的にゲームの可能性が広がるということであり、大きなメリットといえるでしょう。
やや大袈裟かもしれませんが、ウォーゲームがその歴史上、比較的初期の段階でスタックの概念を採用したことは、その後の発展に大きく寄与したものと思います。

一方、スタックにはデメリットもあります。
もっとも大きなデメリットは「ルールが増える」ことと、それに伴って「ゲームが複雑になる」ということです。
人によってはこれはデメリットではなく、むしろメリットと感じるかもしれませんが、大抵の場合、ルールは少ないほうが受け入れられやすいと思います。
ただし、前述のようにスタックには大きなメリットもありますから、結局はバランスの問題ということになるでしょう。多少ルールが増えたとしても、それを補って余りある効果が見込めるなら、それを受け入れるプレイヤーは多いと思います。

スタックのもう一つのデメリットは、ユニットを重ねることで下のユニットが見えなくなる点があります。つまり全体像が把握しづらくなるわけです(反面、盤上の重点はわかりやすくなりますが)。
またこれに付随して、ユニットを何枚も積み重ねる、いわゆる「ハイスタック」の状態になると、ちょっとしたことでスタックが崩れ、場合によってはゲームの続行が不可能になることもしばしば発生します。
ただし、ユニットが隠れてしまうという点については、次回に述べる「隠匿性」におけるメリットにも繋がるので、必ずしもデメリットとも言えません。
またハイスタックの問題は、別シートを用意してユニットはそこで管理し、マップ上には部隊マーカーのみを置くという手法で回避することはできます。
結論としては、ゲームの題材にとってスタックのルールが必要だと考えられるなら、採用するメリットのほうが圧倒的に大きいといえるでしょう。

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スタックの種類

現在までに複数種類のスタックのルールが考案されていますが、その中から代表的なものをまとめてみましょう。

●枚数による規定
  例:1ヘクスに3ユニットまで可能。

●戦力数/ステップ数による規定
  例:1ヘクスに12戦力値分まで可能。

●スタック値による規定
  例:6スタック・ポイントまで可能。

●兵種による規定
  例:歩兵3ユニット+戦車1ユニットまで可能。

●所属(フォーメーション)による規定
  例:同一所属部隊のみスタック可能。

●地形による規定
  例:平地は3ユニット/山地は1ユニットまで可能。

●補給(状態)による規定
  例:補給源からの距離により上限が異なる。

●物理的な規定
  例:スペース内に敷き詰められる数が上限数となる。

以上、ざっと書き出してみましたが、これ以外にもあると思います。
また、上記で挙げた項目も、幾つかを複合しているケースもあるでしょう。たとえばスタック値による規定の場合、地理的要因と複合させて、平地は12ポイントまで/山地は6ポイントまで、という具合です。
ところで、最初に挙げた3項目は、極論すればほぼ同じ内容といえます。
ウォーゲームの歴史で考えた場合、おそらく最初に採用されたのが「枚数による規定」だと思われます。
このルールはシンプルではありますが、欠点もあります。

たとえば作戦級ゲームだとして、ユニット規模が複数種類ある場合に、規模が異なるのに同じ3枚というのは「シミュレーションとしてどうなのか」という問題が生じます。
この問題を解決するために考案されたのがスタック値という概念ではないかと思います。
たとえば1個連隊規模のスタック値を1とした場合、3個連隊を含む師団ユニットなら3〜4スタック値とすれば、ユニット規模による不整合は起こりづらくなります。
また戦力数による規定も、考え方は同じだといえます。ただし戦力数によってスタック制限を設ける場合に気をつけなければならないのは、1ユニットの戦力値を低く抑えてデザインする必要がある(もしくは戦力値が低いことが自然である題材を選ぶ)ということです。仮に2桁の戦力値を有するユニットが多数あるゲームで、スタック制限を数十ポイントまで可能とすると、計算が面倒です。そういう場合には上記のスタック値を導入した方がいいでしょう。

ただ、「計算が多く、煩雑になったとしても精緻なスタック制限が重要」だと考えるゲームもあるかもしれません。1戦力=1ステップとして、戦闘によって徐々に削られていく。お互いに戦線を維持しつつどこかで限界を迎えて崩壊する。そのカタルシスこそがデザイナーとして見せたい(感じさせたい)というのであれば、それはそれでありだと思います。
いずれにせよ、そのゲームのテーマ・内容に沿った形でのスタックのルールが採用されることが望ましいでしょう。
上記で挙げた中で変わり種といえるのが「物理的な規定」でしょうか。残念ながら筆者は直接プレイしたことはないのですが、Avalanche Pressの『War of the States』というシリーズ・ゲームでは、1エリアに配置可能なユニット数は「重ねずに、はみ出さない」数までという規定があるようです。これはエリアの地形種別に合わせてエリア数の面積や形を変えることで、面白い効果を生みそうです。「スタック=積み重ねる」と考えると厳密には異なるかもしれませんが、「特定スペース内に配置可能なユニット数の規定」と考えれば、スタック制限に含めても問題ないでしょう。

また、AHの『Alexander The Great』には物理的にサイズの異なるユニットが登場しますが、1ヘクスのスタック制限は大サイズ1枚・小サイズ2枚までと規定されています。そしてさらに「ガウガメラの戦い」における方陣を再現するためか、ユニットの向きは「同方向または背中合わせ」という規定もあります。
そのほか、スタックを視覚的に活用しているケースもあります。
たとえば戦術級ゲームの『COMBAT COMMANDER』におけるスタック制限は「カウンターに描かれている兵士の数7人分まで」と規定されています。
こういう手法は、ボードゲーマーにも受け入れられやすいかもしれません。

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罰則

多くの場合、スタックのルールは制限を定めたものであり、違反した場合には罰則が伴います。
一般的なケースでは、スタック制限違反(スタック・オーバー)に気がついた時は、「違反している分だけゲームから除外する」という規定です。
これは競技の公平性という観点からは納得のいくルールですが、シミュレーションとして考えた場合、この処理には少々疑問を感じます。
そのため、筆者の知る限りでは違反が発覚した場合、違反しない場所へ置き直すことが多いように思います。またその際、多少の罰則として対戦者が望む隣接ヘクスに動かす、というようなこともあります。
つまり上記の罰則はあくまで故意に行わせないためのものであり、うっかりミスだった場合は「紳士的に」解決するほうが妥当でしょう。
また、ルールによってはそのように規定しているケースもありますし、一時的なスタック・オーバーを認めているゲームもあります(続く自ターンの移動フェイズで解消する前提で)。

また、ユニットの状態による罰則(制約)もあります。
厳密には罰則規定とは言えないかもしれませんが、「混乱」や「麻痺」の状態にあるユニットは、他のユニットとスタックできないという制限などがこれに該当します。
あるいは「混乱ユニットとスタックした(正常な)ユニットは混乱状態になる」と規定しているケースもあります。
これはパニックの連鎖として考えると妥当な処理でしょう。とくに古代戦や中世の戦いのような「士気」に重点を置くゲームの場合には有効に機能すると思われます。
一方で、あえてスタック制限を設けず、結果として不利益(罰則)を被るようにデザインしている場合もあります。
たとえば1ヘクスに配置可能なユニット数に規定はないものの、「砲撃の結果はヘクス内のユニットごとに判定する」というルールがあると、損害が増える(可能性が高い)という不利益を被ります。
スペースが表す面積と、適切な部隊密度の関係にもよりますが、このようにプレイヤーにメリットとデメリットのバランスを取らせるデザイン方法はスマートだと筆者は考えます。
ただし、ゲームバランスを著しく損なう場合は話が別です。もっともこれは、それ以前のゲームデザイン上の問題ともいえますので、スタック云々だけの問題ではないでしょう。

最後に、ウォーゲームとは異なりますが、面白いルールがあったので紹介したいと思います。
楽々さんという方がデザインした『塔とカタパルト』という同人ゲームで、エリアマジョリティを競うボードゲームです。
このゲームではエリア内に積み重ねた(スタック!)キューブの数によって得点を得ます。当然高く積み上げた方が高得点になりますが、ここに一つ落とし穴があります。
プレイはプロットによって進行するのですが、このプロットカードに「カタパルト」があります。
これを選択した場合、物理的な、本物のカタパルトを使って投石(駒ですが)するわけです。
失敗すると自分の塔(キューブのスタック)を破壊してしまうこともありますが、それもまた愛嬌です。
運要素を嫌うプレイヤーには受け入れがたいかもしれませんが、なによりこの「物理的に」バランスを崩す試みには驚かされました。
「シミュレーション」ゲームからはなかなか出てこない発想だと言えます。もしかしたら、これからウォーゲームをデザインする時には、こういう発想の転換も必要なのかもしれません。

次回はスタックのルールと、移動・戦闘について、あるいは隠匿性などスタックと他のルールとの関連について考察してみたいと思います。

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2022年4月20日発行 第164号

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